電子国家と外交特権

「セカンドライフ」にスウェーデンも「大使館」開設 (zakzak)
スウェーデン政府は30日、欧米で流行しているインターネット上の仮想社会ゲーム「セカンドライフ」に“大使館”を開設した。同国政府によると、同ゲーム内に政府が仮想の大使館を開くのはモルディブに続き世界で2番目。館内では自国の文化、産業を紹介し、美術展などを開催するという。「セカンドライフ」内では同日、開設式典が行われ、ビルト外相の「アバター(分身)」がテープカットを行った。同外相は「スウェーデンは革新的で、未来に対する好奇心の旺盛な国」と述べ、世界で500万人以上が参加する同ゲームでの活動を強化する意向を示した。(共同)」

ウィーン外交関係条約の22条1項をごらんください。

第22条[公館の不可侵]

「1 使節団の公館は、不可侵とする.接受国の官吏は、使節団の長が同意した場含を除くほか、公館に立ち入ることができない。」 

外交使節団の構成員とその公館が接受国において享有する特権、免除のことを外交特権といいます。

ウィーン外交関係条約は、外交特権をはじめ、”国内にある国外”についてたくさんの特権と免除を規定しています。

それは外交関係を規律する、最も基本的な多数国間条約です。

ただし同時に外交特権享有者はその特権と引き替えに、接受国の法令を尊重する義務と接受国の国内問題に介入しない義務があります。

ウィーン外交関係条約は、もともと慣習国際法として形成されていた外交関係に関する諸規則を、成文化したものです。

つまり本来は日本なら日本政府という国家権力が管理するはずの土地に、慣習という”無言の合意”によって仮想的に他国の管理するエリアを出現させるわけです。

しかしたとえば日本と呼ばれる土地も、どれだけ歴史を遡っても日本という名札が付いていたわけではありません。

その証拠に、かつて日本の領土であった土地も政治的理由により現在他国に接収されてしまっているように、時代によって日本と呼ばれる土地は拡大・縮小を続けています。

いわば地上という土くれの上は、人間という生き物の互いの仮想によって県境や国境という杭が打たれているわけです。

それはそもそも仮想的な庭なのですから、そのなかに外交特権という他国の仮想的な柵を設けることは、たやすいことなのかもしれません。

とはいえこれまでの国家間の事情と、たくさんの血と肉が吹き飛んできたことで、国境という仮想的な柵には簡単には揺るぎがたい得心が与えられています。

電磁的な純仮想空間「セカンドライフ」は、、現実通貨による土地の売買もなされていますが、現在までのところそこには飛び散った血と肉がありません。

現実国家との法律的な矛盾を解消し、リンデンラボ社がどこまで参加者に安全な統治を提供できるかは、他国の統治を迎え入れる外交特権のような”特殊な合意”を、各国家が電子国家に向けて用意する日を待つ必要があるかもしれません。

 

 

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