与党による議員立法という速射砲

動転国会 首相、窮地回復急ぐ(朝日新聞)
民主党は30日の厚労委での審議で、特例法案の不備をあぶり出そうともくろむ。党幹部は「ひどい法案だ。時効だけで中身が全くない」と酷評。閣僚が答弁しない議員立法であることも問題視し、松本剛明政調会長は29日の会見で「政権のあり方として責任を感じていないことに憤りすら覚える」と強めた。 」

内閣法の5条をごらんください。

第5条

内閣総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案、予算その他の議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告する。」

(以下参照:国会というところ 浜田 幸一 ポプラ社

新しい法律の案は、議員から出てくる場合と、政府から出てくる場合があります。

議員が法律案を発議して行われる立法を俗に議員立法と呼び、内閣法5条にある政府が法律案を提出して行われる立法を政府案にと呼びます。

政府案というのは、具体的には官僚が作成する法案のことをいい、省庁の実質的最高権力者である事務次官事務次官会議で決めています。

そして可決される法案のほとんどは、この事務次官による政府案が占めています。

議員立法が通過する割合が少ないのは、政府案が国会に上がる前から与党の中でその内容について審議しているのに対して、議員立法は野党案が多いからです。

野党案が通らないのは、与党の支配する本会議で否決されるからですが、本会議前の委員会という審議の場で既に否決されているためで、委員会で否決になった法案が本会議で可決になることはまずありません。

つまり法案は実質的には委員会で決まっているというわけです。

国会に上がってきた法律案は、委員会で審議した結果をふまえて本会議で採決されますので、ほとんどの場合、委員会の決定が本会議に反映されるのです。

しかしたとえ与党の議員立法であっても、普通は法案が国会に上がるまでに長い回廊を通らなければなりません。

まず各政党の中には部会というものがあり、この部会で、どのような法律が必要なのか、二年も三年もかけて議論します。

部会の中で案が固まると、今度は党の政務調査会にかけます。

その政務調査会の会長が首を縦に振らなければ、法案は決して上に上がっていきません。

もし無事にこの政務調査会を通過すると、今度は総務会です。

総務会では全会一致を要求されますが、そこで了承されれば、最後に党の役員会に上がります。

役員会で決定されると、今度は国会対策委員会に下りていきます。

国会対策委員会、略称国対は政党間の話し合いを行う場で、提出法案について他党に事前に打診をなし、国会に出る前に、政党同士で話し合いが行われるのです。

そして野党が了承し、国会に提出された法案は、まず議院運営委員会に回されます。

議運が国会のどの委員会に法案の審議を任せるかを決めています。

このように通常政党内の長い旅を経て国会に現れる議員立法には、省庁の官僚が書き上げた政府案に対する議員からの質問が必要ないため、閣僚は官僚が差し出す答弁メモを読み上げる必要が、つまり省庁自身からの立法の説明が必要ありません。

つまり与党がその気になって素早く議員立法を提出すれば、法案に対する議論を尽くすという国会の名目はある意味形骸化します。

しかしその与党を形成したのは、他ならぬ、わたしやあなたの投票、あるいは投票の放棄の結果です。

民主制という体を維持しているわたしたちの国では、わたしたち、特に選挙会場に一度もいったことのないあなたには、そのことがもたらす結果に、仕組み上全く不満はないはずなのです。

 

 

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