法の形式性という淡い祈り

<コースター事故>脱線で女性死亡、乗客ら34人搬送 大阪(毎日新聞)
「同社によると、年1回は分解して超音波や磁石を使った解体点検も行っていたが、直近は昨年1月で、「(今年は)3カ月半遅らせても大丈夫」と判断し、今月15日に実施する予定だったという。法的には問題ないが、遅らせた理由について同社は「新アトラクションを建設する影響で、車体を解体するスペースが確保できなかった」と説明した。折れた車軸については、92年の製造以来、交換したことがなかった。」

建築基準法の12条3項をごらんください。

第12条

「3 昇降機及び第六条第一項第一号に掲げる建築物その他第一項の政令で定める建築物の昇降機以外の建築設備で特定行政庁が指定するものの所有者は、当該建築設備について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は国土交通大臣が定める資格を有する者に検査をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。」 

建築基準法が要求する定期報告制度とは、建築物や、その設備、またエレベータのような施設について維持管理が適切になされているかどうかを、有資格者が調査・検査し主務官庁に報告させる制度です。

多くの人が利用する建築物や、エレベーター、エスカレーター、また遊戯施設であるメリーゴーランドやジェットコースターなども対象になっています。

あらゆる構造物は経年により当初の強度を失っていきますので、高い負荷を長期間受け続けるエレベータやジェットコースターの定期点検が実質的になされていなければ、事故は不可避に起こるといえます。

建築基準法12条3項は、人の知恵で組み上げた建築物の強度を、人の勤勉で維持しようという条文です。

その報告義務を違反すれば、50万円以下の罰金ですが、建築基準法が形式的に強制できるのはそこまでであり、建築許可が下りたあと、定期検査をどのような間隔で報告するかや年間の検査コストをどこまでかけるかなどは事業者の自由意思に一任されています。

その条文があくまで検査の形式性を要求するのみで終わっているのは、それが人が過去犯してしまった罪を社会が慎重に裁こうとする必要的な実質性を要求するものではなく、人の未来を誠実につくろうとする性質への信頼が基礎にあるからです。(私見)

一から十まで法律に指図されなければ施設からいつまでも事故が消えないのだとしたら、わたしたちの暮らす国の空気はこれから随分みじめになるはずです。

 

 

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