AED:Erlaubtes Risiko

自動除細動器で球児助かる 大阪、観戦の救命士が処置(東京新聞)
「同校などによると、試合は4月30日にあった春季近畿地区大会府予選3回戦の桜宮-飛翔館戦。飛翔館の投手上野貴寛君(2年)はマウンドで打球に直撃され、倒れて動かなくなった。子ども連れで観戦していた岸和田市消防本部の岡利次さんが人工呼吸や心臓マッサージをし、学校関係者が運んできたAEDを使用。上野君は間もなく息を吹き返した。AEDは心臓にショックを与える救命装置。公共施設などに導入が進められており、同校には2年前、卒業生が寄贈した。」

刑法の37条1項をごらんください。

第37条(緊急避難)

「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。」  

普通わたしたちが人の体に針を刺したりメスで切ったりすれば傷害罪になります。

その点はお医者さんでも同じですが、それが合法な医療行為だと認められる時に限って違法性が阻却されています。

それは刑法35条にいうところの、”正当業務”と呼ばれる行為にあたると考えられているからです。

その行為が”違法”と呼ばれないためには、(1) 適正な治療目的、(2) 適正な手段、医学的に妥当な方法、(3) 患者さんの承諾が必要です。

しかし緊急時に人体へ電車を動かすほどの電力を通す機械、AED自動体外式除細動器)を使う状況では、承諾は当然なく、状況も万全でないのでこれら要件を欠いています。

そこで例外的医療行為として、刑法37条緊急避難の法理(差し迫った危難を避けるため、やむをえず別の利益を害しても罪としないルール)が適用されると考えられます。

そこに誰かの生命の危険があり、他に方法がなく、胸に電撃を加えることが、救急隊員が来るまで放置するより優先されるなら、AEDは”許された危険”として違法と解釈されなくなるのです。

逆にその有益性より危険性が上回ってしまう時は、医療行為と呼べる範囲を逸脱しますので(たとえば健康な友達に対して練習で使ってしまうこと)、傷害としてその違法性の検討段階に入ることになります。(参照:臨床のための法医学 朝倉書店)

心筋梗塞不整脈などでは、心臓が細かく震えて血液を送り出せなくなる”心室細動”により心停止が起こります。

心臓が停止すると4分以内に脳に障害が発生します。

心室細動を正常な状態に戻さなければ心臓からの血液の送り出しは正常に戻りません。

除細動とは、電気ショックでこの心臓の痙攣を取り除く処置のことです。

AEDはその装置を開けば、あとは自動で電源が入り、コンピュータがどう操作すればいいのかを案内してくれます。

しかも電極パッドを貼り付けた傷病者が、今本当に除細動が必要なのかをコンピュータが心電図解析して判断の上、除細動を行う装置です。

それは数十万円する高価な装置ですが、それを寄贈することにした卒業生達の意思が、一人の少年の人生を取り戻しています。

 

 

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