代理母・冷凍精子・狷介民法

保存精子で死後生殖、根津院長が公表…法整備の遅れを提起(読売新聞)
「根津院長は、子供の福祉の観点から、子供と亡夫の親との間で養子縁組をするよう要請したという。死後生殖は、過去にも西日本の40歳代女性が、夫の精子の保存先の病院に夫の死を知らせずに精子を受け取り、別の病院で体外受精を実施して、01年に男児を出産した例がある。この女性は、男児を亡夫の子として出生届を提出したが、受理されなかったため、認知を求めて提訴した。高裁では、夫の生前同意があったとして父子関係を認めたが、最高裁は、06年9月、現行の民法は死後生殖を想定していないとして訴えを棄却。法律上の父子関係は認めなかった。同様の訴訟2件も訴えを退けた。」

民法の772条をごらんください。

第772条(嫡出の推定)

「1 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。」 

民法はその定める親子関係を、必ずしも生物学的な結論と一致させてはいません。

たとえば養子という制度には生物学的血縁を要求されませんし、逆に生物学的な親子関係が存在しても法律上は親子だと認めない場合もあります。

それは婚姻秩序の維持や身分関係の法的安定のためだといわれています。

民法が法学的な親子関係を規定する理由は、大きく分けると3つあります。

第1に、親が死亡した場合に、その財産の相続人を定めるためです。

私有財産制度のもとでは,世代間の財産承継の秩序を保持するために,親子関係の存否の法的な決定が不可欠だからです。

第2に子供の面倒を見るべき第1次的な義務者を法定するためです。

未成熟の子は誰かが面倒を見ないと生きてゆけませんが、親が未成熟子を監護し養育することが、家族関係の中核部分なので民法はこの親の義務を法的義務にまで高めています。

その結果、誰が義務者かを確定するための規定を置く必要が生じるのです。

第3に、親子関係の連鎖によって血族関係が成立しますが、血族とされると一定の法的効果が生じます。

それは扶養や相続の要件となりますし、さらに血族を基礎として構成される親族という関係にも、いろいろな法的効果が結びつけられているのです。

したがって、血族や親族といった関係の最も基本的な単位である法学的な親子について定めておく必要があるという考え方です。(参照:内田貴 民法IV 補訂版 親族・相続 東京大学出版会

司法は必ずしも生物学的な親子関係と法学的な親子関係を一致させてしまうことがわたしたちにとって幸福かどうか定かでない点にジレンマを感じています。

原則的にはどの立場にいる女性が、生まれてきた子供を一番愛情持って育ててくれるのか、司法は代理懐胎の場合ひょっとするとそれは実際にお腹を痛めて出産した女性である場合も多いのではないか、そして多くの人が関わる民法体系の基軸とすべきなのは、そうした手触りで確かめられる事実にまだしておくべきではないのかと考えているようです。(私見)

代理母、凍結保存精子、科学技術はこれからも今のわたしたちには想像もできないような方法で、悩みを持つご夫婦にお子さんをもたらしてくれるでしょう。

現実に比べ歩みが遅いと誹りを受けがちな法律改正ですが、ことそれが人の一生につきまとう家族法の分野に限っては、あえて先端技術よりも歩みを遅くしておくという判断にも、理はまた存在しているように見えます。

 

 

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