Curiosity killed the Postman

有名人の年賀状、ネットに文面公開…元郵便局員を送検(読売新聞)
「調べによると、元職員は昨年12月末、同郵便局で仕分け中に有名人の年賀状を見つけ、ミクシィの自らの日記に、有名人の名前と、その文面を書き込んだ疑い。元職員が、仕分け中に見つけたと書いていたため、1月下旬、サイトを見た会員が九州支社に通報した。同郵便局は、ミクシィの運営会社を通じて書き込みを抹消するとともに、今月13日、元職員を懲戒免職処分にした。」

郵便法の9条をごらんください。

第9条(秘密の確保)

「公社の取扱中に係る信書の秘密は、これを侵してはならない。

2 郵便の業務に従事する者は、在職中郵便物に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。」 

憲法の21条2項後段には、「通信の秘密は、これを侵してはならない」と定められています。

ここでいう通信の秘密とは、手紙や葉書だけに限られず、電報や電話などの秘密を含む広い意味に解されています。

通信とは誰かへ意思を伝えるという一つの表現行為なので、通信の秘密は表現の自由の下で保障されることは明らかです。

しかし通信を秘密にするとは、誰かと誰かのコミュニケーションを保護することにあり、それは公に対するあからさまな表現というよりも、私生活・プライバシーの保護の一環としての意味のほうがより重要になります。

よって通信の秘密は単に文面を保護するだけではなく、差出人や受取人の名前、住所、何通出されたのか、いつ出されたのかなどにも保障が及ぶと解釈できます。

そして憲法が”通信の秘密を侵してはならない”と命ずる先には二つの標的があり、ひとつは権力によって通信の内容や存在自体が調査の対象とはされないこと(積極的知得行為の禁止)、もうひとつは通信業務に従事する人が職務上知りえた情報を漏洩されないこと(漏洩行為の禁止)を 意味しています。[参照:憲法〈1〉 野中俊彦 有斐閣 第4版]

地方で郵便業務にたずさわっていれば、都心に暮らす有名人が”また人である”という単純な感触も薄れがちになり、より記号的になるかもしれません。

しかし通信にたずさわるその職場は、日常的にわたしたちの心を開示した記録を扱っていて、職員が倫理に抗えば、いくらでも誰かの心をあざけり、また晒すことが可能になる特殊な側面を有する場所です。

だからこそ憲法は、通信の秘密の第二の面として、郵便の業務に従事する人に職務上知りえた他人の秘密を守らなければならない、という特殊命令を郵便法を通じて発しており、それこそが9条2項なのです。

心を誰かによってあげつらわれないことの保障が、有名人にも、悪人にも、そしてもしかすると通信業務に従事するあなた自身にもなんの留保もなく与えられていること。

それが旧憲法にはなかった現行憲法のメインスペックのひとつです。

 

 

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