社会という万華鏡、争点という覗き穴

東京地裁の堀江判決を批判する(Livedoor News)
ライブドア事件の本質は「投資組合を通じて行った自社株の売却益を、利益として計上した」という企業会計の問題に尽きる。もし利益計上が合法なら無罪、違法なら有罪、という裁判だ。事件当時、この利益計上が合法か違法かは、公認会計士ですら判断に迷う問題だった。16日の判決では、どう判断されたのだろうか。裁判所は「投資組合は脱法目的で設立され違法」とし、投資組合の存在を否定した。だから、前述の利益計上そのものが法的にどう位置付けられるのかについて、直接判断をしなかった。裁判官は、判断から逃げた。」

刑事訴訟法の256条3項をご覧下さい。

第256条

「3 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」 

訴状に「訴因」を記載する制度は、戦争に負けて新しくできた現行刑事訴訟法ではじめて採用されたものです。

訴因とは、検察官による犯罪事実があったことの主張です。

刑事訴訟法における起訴状では、単に「犯罪の事実」を示すものとされていました。

それは、旧法では、裁判所は起訴状記載の犯罪事実に拘束されないで、被告人の犯した罪を広く審判することができたからです。

現行法は、被告人席に呼ばれた人が疑われている点に対して十分対応策をとれる権利を保障するため、このような「犯罪事実」の記載方式は維持できないこととなっています。

そこで新たに採用されたのが「訴因」という制度でした。

[参照:田口守一 刑事訴訟法 弘文堂]

訴因という考え方を採用したことで、被告人席に座った人は自分の全人生を360度弁解する必要はなくなりました。

特定の訴因は、起訴状に検察官が書いた時点では彼の主張にすぎず、客観的な嫌疑ではありません。

そして普通、訴因の全ては争われず、そこに争点となる事実とならない事実が混在しています。

争点とは、訴訟において当事者が争う主要な論点のことです。

訴因は、被告人に野球場の広さを教え、争点はさらに被告人がセンターを守ればいいのか、サードを守ればいいのかを確定するものです。(私見)

またその効果として、裁判所が一つの争点へ公的な結論を下せば、その公告機能によりフィールドの陰影ははっきりして、生活者は安心して経済活動等プレーに専念できます。

逆に裁判所が政治的判断によってひとつの争点に関する判断を回避したならば、わたしやあなたにとってフィールドは異常に広く不安な場所として維持されたままになります。

争点はその意味でひとつの訴訟に収まらず、裁判所から社会の形も再規定する機能をも持ち合わせています。

 

 

法理メール?  * 発行人によるメールマガジンです。