インセスト:タブーであって違法でないこと

近親婚にも遺族年金 最高裁初判断、受給資格認める(中日新聞)
「泉徳治裁判長は判決理由で「内縁関係の近親者は厚生年金保険法で保護されるべきではない。ただ農業後継者確保などを目的に、おじめいなどの内縁関係は散見され、その関係形成経緯や周囲の受け止め方、生活期間、子の有無などから反倫理性や反公益性が小さければ年金を受給できる」との初判断を示した。その上で「原告の場合は叔父の子を養育するのが目的で親族や地域も受け入れ、円満に生活していた」として請求を認めた。」

民法734条の1項をごらんください。

第734条〔近親婚の禁止〕

「1 直系血族又は3親等内の傍系血族の間では,婚姻をすることができない。但し,養子と養方の傍系血族との間では,この限りでない。」 

法律上、自分達の婚姻を社会に認めさせる、つまり事実婚と呼ばせないために、民法はまず739条で届け出を要求します。

そしてその届けを役所に認めさせるために、更に民法は二人の婚姻の意思が合致していることを前提に、四つの実質的要件を要求しています。

731条 婚姻できる年齢であること

732条 重婚ではないこと

733条 待婚期間はすぎていること

そして734条から736条が、近親婚ではないことを要求するのです。

(更に未成年の場合、婚姻に父母の同意を要求されます)

近親婚とは、親等の近い親族間の婚姻をいい、民法は、直系血族間、3親等内の傍系血族間、直系姻族間の婚姻を禁止しています。

叔父さんと姪は3親等内の傍系血族にあたり、わたしたちの社会では法律上この婚姻を認めないことにしています。

インセストがなぜタブーとされるのかは、感情や俗説を越えれば、科学的説明はなされていません。

ただし仮に生まれくる赤子に身体的害は与えなくとも、遺伝形質を2倍にはし、近親以外と結婚していればもてるはずだった遺伝子的発展の可能性は子供から剥奪しているとはいえます。

近親婚について、ロビンソン・ジェファースが「悲劇の彼岸にある塔」という詩のなかで、ひとつのギリシア神話を描いています。

ミケーネの王アガメムノンがトロイ戦役にギリシャ軍を率いて出征中、彼の妻クリュタイムネストラは彼女の叔父エジステウスを情夫として引き入れました。

アガメムノンがトロイから帰還したとき、彼女は夫を殺害してしまいます。

続いて彼女は幼い息子オレステスをも国外に追放し、娘エレクトラを奴隷の地位におきます。

成年し復讐にあらわれたオレステスは、色仕掛けまでして命乞いをする母クリュタイムネストラを殺害してしまいますが、そのことで気が触れてしまい森のなかで幻影を見ます。

「自分は暗闇のなかを動く自分たちの幻影を見た

それらすべては自分が行なったこと、あるいは夢みたものだ

お互いを凝視して男は女を追い女は男にしがみついた

戦士たちと王たちは暗闇のなかでお互いに引き合った

みんなはなくなった人びとの一人ひとりを心のなかで愛したりそれと闘ったりしていた

自分をほめてくれる他人の目を探し求めた

決して自分自身ではなく、他人の目を

彼らが後ろをふり返ると、彼らはただ始点に立っている一人の男を見る

あるいは前方に目をやる終点に一人の男を見る

また見上げればはげしく輝いている大空を大またで歩きかつ楽しんでいるものを見る

それをあなたは神々と呼ぶ

ひるがえって心のなかを見るとあなた方の欲望はすべて近親相姦である」

親殺しオレステスは、やがて女神アテナによって許されることになります。

[出典:ロロ・メイ 失われし自己をもとめて信書房]

ジェファースが描いたように、社会が近親婚を禁ずるもまた、居心地のいい家族の支配から脱して人に真の自由をうながすための、古来からの集合無意識的な施策であるかもしれません。

ただ社会が法的認定を与えないことと、人に誰かを愛する自由のあることは、また違ったレベルのお話です。

今回の最高裁判断もそのレベルの差異を詳細に検討し遺族年金の受給を認めているように読めます。(私見)

 

 

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