地方の骨を抜いて別物にしよう

東国原知事:ヒアリングを公開 実務に奔走、質問攻め /宮崎毎日新聞
「防災ヘリコプターを導入していることを聞いた東国原知事は「(鳥インフルエンザが発生した)日向市の現場まで車で往復5時間かかったが、そういうときには使えないのか」と質問。担当者が「できます」と回答すると、「知らなかった。誰も言ってくれなかった」と述べ、職員が陳謝する場面もあった。」

憲法の93条第2項をご覧ください。

第93条

「2 地方公共団体の長,その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は,その地方公共団体の住民が,直接これを選挙する。」 

憲法93条は地方の長は直接選挙で選出するとしていますが、そのアイディアの源泉は米国の国務・陸軍・海軍三省調整委員会、SWNCCが示した日本の統治体制改革の指針文書228、通称スウィンク・トゥー・トゥー・エイトに現れています。

文書によればSWNCCは当時の日本を観察し「都道府県の職員は、できる限り多数を、民選するかまたはその地方庁で任命するものとすれば、内務大臣が都道府県知事の任命を行なう結果として従来保持していた政治権力を、弱めることになるであろう。同時に、それは、地方における真の代議政の発達を、一段と助長することにもなろう。」と判断しています。

そしてそれをすぐ裏付けるように、当時の日本政府は総司令部からの新憲法案に対して、「直接選挙」という文言をただの「選挙」に修正しようとしてみたり、「知事だけは間接選挙でもよい」と修正しようと試みたりしています。

しかし当時の日本政府によるこれら一切の抵抗は総司令部に拒否され、93条に「直接」という文言は厳として残されることになりました。

天皇が勅任する大名のような知事はこうして姿を消し、戦後の知事は住民が直接彼を押し上げる形に強引に形を変えたというわけです。

[参照:日本国憲法制定の過程 高柳賢三 他 有斐閣]

地方の長の直接選挙を連合軍が強行に要求した目的地が、全体主義の根絶にあったことは容易に図り知れます。

そしてそれが憲法第八章を単に地方行政(ローカル・ガバメント)と名づけず、地方自治(ローカル・セルフ・ガバメント)と名づけていることの真意でもあるはずです。

地方自治の本旨、つまりプリンシプルは、その意味で行政を”国民を支配するための装置”から”権力を支配するための装置”に再定義したところにこそ存在するのだともいえそうです。(私見)

ところで、もともとプリンシプルという言葉には、”背骨”という意味が並存しています。

そして”行政の再定義”が地方自治の背骨なのだとすれば、あらゆる手管でその骨を抜いてしまえば、地方は独自権力を保ったまま93条2項にある「直接」という二文字の真価を発揮させないままにしておくことは可能になります。

逆に言えば新しく知事になった人が、ローカル・セルフ・ガバメントをどれほどその本旨通りに機能させられるかという点も、自分はどちら側からきた人間なのかをどこまで意識しつづけられるかに、かかっているのだといえそうです。

 

 

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