倫理は痺れてどうでもよくなった

不二家:問題隠ぺいの形跡?「雪印の二の舞い」と内部文書(毎日新聞)

「シュークリームに消費期限切れの牛乳を使用していた問題で11日、会見した菓子メーカー大手、不二家の藤井林太郎社長は、食品衛生法の規定の10倍、社内基準の100倍の細菌が検出された洋菓子「シューロール」を出荷していたことを明らかにした。同社は「発覚すれば(解体的出直しを迫られた)雪印乳業の二の舞いは避けられない」との内部文書を作成しており、問題を隠し続けようとした形跡もある。不二家によると、昨年6月8日に埼玉工場(埼玉県新座市)で製造したシューロールで、基準を超える細菌が検出されたが、そのまま113本を出荷した。消費期限を社内基準より1日長くしたプリンの出荷も判明した。また、同工場では04年に1カ月で50匹のネズミを捕獲、06年夏以降も2匹捕獲しており、衛生上も問題があった。一方、内部文書は社内の調査チームが作った報告書に添付されていた。」

会社法の355条をご覧ください。

第355条(忠実義務)

「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。」 

よくいわれるコンプライアンスとは、”従う”という意味であり、企業の利益追求はあくまで法令や社会の倫理の範囲内におさめるべきだという時代の要求を意味しています。

会社法の355条も、取締役に法令や定款、株主総会の決議の遵守を”社会のために”要求しています。

自社の不祥事の情報を積極開示することは、所属する従業員達にとって自社の未来を、すなわち自分たちの未来を薄暗くさせるように感じさせるかもしれません。

このため従来は内部にいる全員の利害が一致して、企業にとって不利益な情報は隠蔽される方向になりがちでした。

しかしこれまでにも不祥事をもみ消そうとする企業の態度により、社会的な信用が失われ、結果的に事業の継続に決定的なダメージをもたらした事例が生まれています。

その意味で情報の隠蔽という判断は、終局的に社員やその奥さんや子供達に益をもたらすものではありません。

まして食品は消費者の口に直接入る商品であり、衛生管理のずさんは生命の危機さえ起こし得ます。

ただしどのような業種であっても、ことの重大さを理解する良心は、やがて企業の利益追求運動のなかで徐々に麻痺していってしまうのかもしれません。

そもそも株式会社は取締役に業務を委任しているような関係にあります(会社法の330条)。

つまり取締役は、受任者的な立場としてその業務に善管注意義務を負っていることになります。

しかし取締役とは迅速な決断が要求されるポストであり、結果責任ばかりを問う法設計にしてしまえば、取締役達はいきおい常に消極判断しかできないことにもなりかねません。

そこで取締役に注意義務違反の責任を問う場合、その証明責任は追及側にあって取締役達にはなく、取締役に責任追及がなされるのはもっぱら他の取締役や使用人に対する監督義務違反に集中することになります。

裏を返せばどこかの企業が情報を隠蔽する体質だったことが判明したら、それはとりもなおさず、取締役達がその体質を長年放置したのか、あるいはその体質になるまで指導を塗り続けたのだと判断されることになります。

株式会社法から解釈すると、コンプライアンスの不徹底が企業にもたらす不利益を真に理解すべきなのは、取締役達であるといえるのです。

2002年1月、隠蔽に隠蔽を重ねた三菱自動車工業はトレーラーのタイヤを脱落させ、親子三人を死傷させました。

同じころ牛肉偽装が発覚した雪印食品は、解散に追い込まれました。

いつの時代も企業が社会を発展させたことと表裏のように、その不祥事は発生してきましたし、きっとこれからも発生します。

しかしもし万が一自社の内部で社会に迷惑がかかる不祥事が発生した場合に、これからの時代は企業を存続させていくためにも、新しい情報開示フォーマットを要求しています。

 

 

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