そのシマには黒い金が流れているから

ロシア:反プーチンの著名女性記者、自宅アパートで射殺(毎日新聞)
「【モスクワ町田幸彦】ロシアのチェチェン紛争問題でプーチン政権の弾圧策を批判してきた著名な女性記者、アンナ・ポリトコフスカヤさんが7日、モスクワ市内の自宅アパートで射殺体となって見つかった。ポリトコフスカヤ記者は99年から第2次チェチェン紛争を取材し、ロシア連邦軍による住民虐待の実態を暴く記事を発表した。02年10月のモスクワ劇場占拠事件ではチェチェン独立派武装勢力の犯人グループとロシア当局の交渉を仲介した。04年9月、北オセチア学校占拠事件を取材するため搭乗した航空機中で紅茶を飲んだ後に意識不明となり、「毒殺未遂」に遭ったと訴えた。警察当局によると、記者の遺体が発見されたアパートのエレベータ-には拳銃1丁と弾丸4発が残されていた。犯人の具体的な情報は明らかになっていない。ポリトコフスカヤ記者が所属する独立系ノーバヤ・ガゼタ紙のムラトフ編集長は「彼女が執筆したチェチェン問題の記事を近く掲載する予定だった。殺害はこの記事と関連している可能性がある」と語った。ロシアではジャーナリストの殺害事件が90年代から続発している。」

日本国憲法の21条をご覧下さい。

第21条〔集会・結社・表現の自由,検閲の禁止,通信の秘密〕

「集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する。

 検閲は,これをしてはならない。通信の秘密は,これを侵してはならない。

わたしやあなたの国ではジャーナリストが取材する自由は、憲法の21条で保障されると法学上解釈されています。

最高裁判例でも、取材の自由は十分尊重に値いするものだと明言したものがあります(昭和44年11月26日 博多駅テレビフィルム提出命令事件等)。

しかし政府が報道を管理しているといわれるロシアでは、ジャーナリズムは異なる仕事を負わされているようです。

もし母国の政府を批判するジャーナリストが国家権力により殺害される国があるとすれば、そこはもはや国民自身から査定されることを権力が拒絶した国家なのだといえます。

言い方を変えれば、取材の自由の保護度合いはどの程度民が主である国家なのかを計るスケールになるということです。

殺害されたアンナ・ポリトコフスカヤさんはロシア国防省特別建設総局の汚職を著書のなかで次のように告発しています。

「この戦争は結局のところそれを遂行している者すべてにとって好都合なものなのだ。それぞれが自分の持ち場を得ている。契約志願兵は検問所で十ルーブルから二十ルーブルずつの賄賂を四六時中手に入れている。モスクワやハンカラの本部にいる将軍たちは予算に組まれた「戦争」資金を個人運用する。中間の将校たちは「掃討作戦」で略奪する。そして全員合わせて(軍人+一部の武装勢力が)違法な石油や武器の取引にかかわっている。」[チェチェン やめられない戦争 アンナ・ポリトコフスカヤ NHK出版]

現実問題としてアメリカと戦争をするはずのない現在のロシア軍が、贅沢に弾薬を使用し、兵舎の建設などインフラ整備を進められる場所はチェチェンのみです。

予算案提起や事業の発注、私企業による受注のできる権力者にとっては自国の富をポケットに引き込める終わりなき公共工事にすることもできます。

さらにチェチェンの膝元にはカスピ海の豊富な石油資源が眠っており、弱体化したロシアという国家にとってもこの世界最高の商材を見逃すわけにはいきません。

チェチェン人という呼び名はロシア人によって名付けられたものであり、実は彼ら自身は自らをナフチ人と呼ぶのだそうです。

ナフチとは「ノアの人々」という意味で、エホバの洪水を逃れたノアの箱船の民を意味するのだといいます。(参照:チェチェン紛争 大富亮 東洋書店

ノアの箱舟の話は旧約聖書だけでなくイスラム聖典コーランにも書かれています。

それによればノアとその子孫たちは、大洪水という罰で一旦神の怒りを解かれます。

しかし再びその数を地上に増やしだすと人間はかつての神の怒りを忘れ再び栄華を追求し、神の居所である空をも切り裂くバベルの塔を建てようとします。

大洪水による罰を二度と与えないと人間に約束していた神は、人間の言葉をさまざまな言語に分けてしまい、意思疎通をできなくする罰を与えたのだといいます。

その地バビロンは、今のイラクあたりのことだといわれ、地球儀でみてみればそれはチェチェンから南にそれほど遠くなく位置しています。

財産の私有化を許したロシアでは富の偏在が進み、持たざる者となった大衆の怒りと崩壊した旧ソ連邦の自信が、独立しようとする山岳民族を許さない強いプーチンを後押ししているのだといいます。

プーチンと新興富豪は、チェチェンに新たなバベルの塔を重ねようとしているのかもしれません。

いずれにせよ事の本質を読むためには、解釈される前の大量の事実を机上に並べる必要があります。

残念なことにそれを続けてきた優れたジャーナリストが、エレベータの中で殺されました。