can't be born again

皮膚から万能細胞 京都大教授ら、マウスで成功(朝日新聞)
「京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授と高橋和利特任助手は、マウスの皮膚細胞から様々な組織に育つ「万能細胞」を作ることに成功したと、米科学誌セル(電子版)に11日発表した。万能細胞は、病気や事故で損なわれた組織や臓器を補う再生医療への利用が期待される。生命の萌芽(ほうが)である受精卵も、提供女性に負担をかける未受精卵も使わない山中さんらの方法は、倫理問題回避の道を示す画期的なもので、世界的に注目されている。」

文科省告示の第155号、第27条をご覧ください。

ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針
( 平成13年文部科学省告示第155号)

第27条(禁止行為)

「ヒトES細胞を取り扱う者は、次に掲げる行為を行ってはならないものとする。

一 ヒトES細胞を使用して作成した胚の人又は動物の胎内への移植その他の方法によりヒトES細胞から個体を生成すること。
二 ヒト胚へヒトES細胞を導入すること。
三 ヒトの胎児へヒトES細胞を導入すること。
四 ヒトES細胞から生殖細胞を作成すること。」 

ES細胞とは、受精後間もない胚などから取り出される細胞をいい、それは様々な臓器や器官に分化できることから、別名、万能細胞とも呼ばれています。

ヒト受精卵を使用したES細胞は、今後ヒトのあらゆる細胞、組織に分化しうる能力を有する可能性を秘めており、より研究が進行することを期待されています。

しかしこれまで、その採取源としては凍結受精卵等が使われていたため、特定の思想をもつ人たちなどからはES細胞を使った研究に強い反対の声があがっていました。

事実、大人になってからキリスト教への信仰をガチンコで開始した福音派(Born Again Christian)であるといわれるブッシュ大統領も、ES細胞研究への連邦助成を拡大する法案に対して就任後初の拒否権を発動する見込みなのだといわれています。

聖書を原理とする人たちにとって、”受精卵という神の仕事”を人の手が割ることなど圧倒的に間違った行為だと感じられるからです。

もちろんキリスト教原理主義者ではなくとも、たとえ新しい治療の研究のためとはいえ、無分別につぎつぎと医者が受精卵を割っていくと聞いて感情をかき乱されない人はあまりいないでしょう。

それを神の仕事と呼ぶかはともかく、すでに世界に生まれ得ることができたわたしやあなたの存在を哲学的に軽んじられないためにも、受精卵に対しては一定の規律的態度を誰もが要求したいと考えるはずだからです。

するとそれはすでに医師各人の内面に備え付けられた倫理に任せられる範囲のものではなく、このためヒト受精卵を使用したES細胞の取り扱いに関しては「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」という文科省発のガイドラインが存在しています。

このガイドラインは研究者の準ずべき規律を2001年9月25日はっきりと提示し、それ以降大学等で研究を行おうとするチームはまずこのガイドラインに沿った倫理審査委員会で審査・承認を受けた後、さらに文部科学省で審査・承認された研究のみが実施できるという縛りを受けることになっています。

さらに倫審委や文科省に問うまでもなく、明らかに研究者という前に人としての一線の倫理を超えていると思われる行為に関しては、あらかじめその27条が絶対禁止の領域に置いています。

さて今回、京都大再生医科学研究所のチームは、受精卵というデリケートな存在を破壊することもなく皮膚細胞から万能細胞を作ることに成功しました。

これで生命の誕生を神の仕事と呼ぶ人たちも、そうは考えない人たちの一般感情も、どちらも逆撫ですることもなく、難病に苦しむ人たちへの救いの道に明かりを差すことに成功しています。

ただしそれは文科省の「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」という告示の精神が不要になった時代の到来を意味するものではありません。

卵子を用いるか用いないかという研究手法の外形面がバイパスされた結果、研究者の意図も把握できづらくなる分、ますます第27条の立法趣旨はその重みを増す時代が到来したのだともいえます。

それはまず第一に、研究という名でもてあそばれてこの世に生まれてしまった人は、事実生まれ直すことができないという点にあります(私見)。

 

 

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