ファミリービジネスの玄関に呼び鈴はない

パロマ事故、安全装置の在庫が不足(朝日新聞)
パロマ工業製のガス湯沸かし器による一酸化炭素(CO)中毒事故で、北海道エルピーガス協会が96年、前年に北海道恵庭市で起きた事故の背景として不完全燃焼を防ぐ安全装置の在庫不足を指摘していたことが分かった。同社は事故が多発する中、部品製造を打ち切っていた。昨年11月に東京都港区で起きた事故を捜査している警視庁は、安全装置の在庫不足が不正改造を誘発した可能性もあるとみて、関係者の事情聴取を進めている。」

法人税法の第2条10号をご覧ください。

第2条 

「この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

10.同族会社

会社の株主等の3人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人がその会社の発行済株式の総数又は総額の100分の50を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合その他政令で定める場合におけるその会社をいう。」 

少数の株主等によって、過半数の株式等が支配されている会社を法人税法上、同族会社と呼びます。

同族会社では、株主に対する高い所得税率の適用を回避するために利益を内部に留保する場合が多く見られます。

また容易かつ合法的に株主や社員、関係者の租税負担の軽減を図ることさえ可能です(多くの場合、それを目的に法人成りは利用されています)。

そこで法人税法は同族会社に対して非同族会社よりも厳しい審査基準を設けています。

しかし同族会社にまつわる本質的問題点は、法人税法が睨みを効かせる税収の場面だけに収まりません。

たとえば取締役を選任する株主総会でも、現実には総会を開かず議事録のみを作成し登記をすませる同族会社は、現実には日本中にたくさん存在しています。

またはそれほど極端でなくとも総会の召集手続や決議方法が商法の要求するところに合致しておらず、したがって本来無効の総会決議を行っている場合も珍しくありません。

商法の定める手続を守らない決議でも関係者一同がこれに異存なく従うなら、表面上有効なものとして維持されているというのが今日も日本中で行われている現実です。

(参照:同族会社のトラブルと対策 堀越董 税務研究会出版局)

さて、パロマという会社の社史によれば、創業者小林由三郎氏が小林製作所を創業、まもなく2代目小林進一氏がこれを継承。

続いてそれを母体にして、製造部門の「パロマ工業株式会社」、販売部門の「株式会社パロマ」が独立分離、それぞれ家族である小林敏宏氏と小林弘明氏が社長に収まっています。

法人税法上の定義はともかく、人事を見る限り家族で一大企業グループを形成していることに間違いないようです。

製造部門であるパロマ工業の社長が辞め、販売部門であるパロマの社長は辞めないという会見がありましたが、グループを家族の手からは離さないという意思表明ととれないこともありません。

設計上に問題があった湯沸かし器が、20年間で殺してきたユーザの数はわかっているだけで21人。

家族商売に公の風(安全の基準)を通す、つまり責任を認めさせるには、業過致死という公法の出動を待たなければならなかったようです。

日本の株式会社の大多数を占めるといわれる同族会社の是非はともかく、ファミリービジネスの玄関は悲惨な事件が頻発するまで誰もノックできないというのが、わたしやあなたが肯定している世界の現実でもあるようです。




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