人は怒りの虜になる

ジダン問題FIFAが調査 マテ処分も (スポニチ)
イスラム教徒による自爆テロが国際問題となる中「信者=テロリスト」と判断する図式はフランスでは差別思想とされている。マルセイユ生まれのジダンだが、両親はイスラム教アルジェリアからの移民。現在も同国には親族が残り、ジダンも自身のルーツに誇りが強いと言われる。今回は体調が悪く入院中の母親に対する侮辱だったという説もあり、フランス内外で波紋を呼んでいる。今季から人種差別には勝ち点はく奪を含めた厳罰姿勢を示し、W杯でも差別反対の啓発活動に力を入れてきたFIFA。理事の日本協会・小倉副会長は「証拠が出て事実が確認されれば出場停止や罰金になるかも」と語っている。FIFA規約では宗教や出自を含む差別的な言動で中傷すれば最低5試合の出場停止処分を科される。」

FIFA懲罰規定 (FDC) の第55条第1項をご覧ください。

FIFA Disciplinary Code

Section 3. Offensive and racist behaviour

Article 55 Racism

「1. Anyone who publicly disparages, discriminates against or denigrates someone in a defamatory manner on account of race, colour, language, religion or ethnic origin will be subject to match suspension for at least five matches at every level. 」

(私訳)

セクション3. 人種差別的振る舞い

第55条 差別

「1.人種、肌の色、言葉、宗教あるいは種族的出身のために中傷的なやり方で公に誰かを誹謗するか、差別するか、侮辱した人は誰でも、最低でも5試合の出場停止とする(以下略)」 

サッカーワールドカップという新しい悦楽を知ってしまったわたしたちは、代表チームを応援するたび、ニッポン、ニッポンと普段意識しない国名を連呼し、ピッチに向けてひと時のナショナリズムに酔うことを許されます。

それは試合観戦をより熱いものにし、むしろFIFA自身歓迎するところでもあるでしょう。

しかし世界中からいろいろな肌の色や宗教をもった人たちが自国の選手を応援するために大挙集結するワールドカップという構造は、どこかで気を緩めれば人種間対立の様相をも漂わせるのりしろをもっています。

それゆえ右傾化した思想を背景にもつといわれる、いわゆるフーリガンズのアピールの舞台としても古くから利用されています。

そしていったん人種偏向思想の喧宣の場としてワールドカップのスタジアムが飲み込まれてしまえば、”代理戦争”というサッカーの代名詞から”代理”という題目は不要となるでしょう。

FIFAがその懲罰規定の第55条のように、人種差別行動をした者に対して5試合もの出場停止という強力な罰則を用意して憂慮しているのも、その点であろうと思われます(私見)。

確かに他のスポーツに比べ、サッカーの国際試合は相手国のゴールネットを突き揺るがすという強烈な象徴性が存在します。

しかし問題はサッカーという固有のスポーツのルールの内側にはありません。

問題は”怒り”という感情が人間を盲目にするという仕事のほうにあります。

たとえばわたしたちがいつの日か国家規模の経済問題に苦しみ、同時に近い将来不可避である移民問題に直面したとしましょう。

このとき、「この憤懣の元は移民のせいなのだ」と、わたしたちの外側にその原因を求めるのなら、怒りはいつまでも事の本質をわたしたちに捕らえさせないはずです。

むしろ無力感にかられたわたしたちは、己の人生と添い寝するため怒りによる盲目を時に都合よく利用さえするかもしれません。

怒りという感情には人を虜にして離さない蜜の味がひそんでいます。

それはたとえあの名選手ジダンであろうとも、強豪フランスの手からワールドカップを滑り落とさせてしまうまで夢中にさせてしまうほど、狂おしい味です。




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