そして法律は暖簾になった

内側扉が開いたままエレベーター上昇 八王子のホール
「東京都八王子市の市芸術文化会館いちょうホール(同市本町)で今年4月、「シンドラーエレベータ」社製エレベーターの内側の扉が20~30センチ開いたまま上昇、外側の扉が開かないため乗っていた3人が一時閉じこめられていたことが、9日分かった。このエレベーターでは、04年4月以降「中に人が閉じこめられた」「待っていてもドアが開かない」などのトラブルが計5件起きていた。いずれもけが人などはいなかったという。 」

建築基準法施行令の第129条の9をご覧下さい。

第129条の9

「エレベーターには、次の各号に掲げる安全装置を設けなければならない。

1 かご及び昇降路のすべての出入口の戸が閉じていなければ、かごを昇降させることができない装置。(以下省略)」 

エレベータは扉が閉まらないと動き出さない、これは少なくともわたしやあなたの国では必須の前提事項として建築基準法施行令が要求しています。

エレベータやエスカレータなど公共の場所にあるエレベータが施設によって安全性の信頼度に隔たりがある社会だとすれば、昇降する箱に乗る行為は一種のギャンブル、それもローリスク・ハイリターンなギャンブルになってしまいます。

そのため施行令の129条の9は、扉が閉まらなければ昇降できないこと、籠が来ていないときに勝手に扉が開かないこと、操作していなければ籠は勝手に移動しないこと、いざとなったら動力を切れること、妙に高速になったら動力が自動的に切れること、万が一落っこちたときは衝撃を緩和できること、閉じこめられたら連絡できる装置があること、などがカゴに当然に備わっていることを私たちとメーカの間で保証していたはずでした。

エレベータなしではもはや生活が成り立たない現代の暮らしにおいて、ロープで数トンの加重を高層階まで一気につり上げるリフトの安全度をわたしやあなたが把握するには、唯一法でメーカーをコントロールするより手立ては現実にはありません。

そして純益やシェア戦争の前にどこかのメーカーが建築基準法施行令を見下した生産体制をとっていたとしたならば、保証書としての建築基準法施行令はただの飾り物でしかありえなくなります。

そしてもしそのときは、日本エレベータ協会のホームページでいかにリフトの安全性を強調しようとも、全てが空虚に響くだけです。

(ちなみに日本エレベータ協会のホームページ上では”建築基準法129条の9で定められている”とありますが、正しくは建築基準法施行令129条の9が正解です。)

起こるはずのない手抜き設計がマンションで頻発したあとは、起こしてはいけない事故がエレベータで起こりつづけていることが明らかになりつつあります。

エレベータ市場というお店には、販売純益はもとより、長期間の高額なメンテナンス契約というとてもおいしそうな料理や飲み物が並んでいます。

そこでは施行令は、もはや暖簾のように”そこには確かにあるけれど、さっさと手ではらってくぐり抜けるだけ”という、気にもとめられることがない地位に成り下がってしまっていたのがどうやら一面の現実であるようです。

たとえ”エレベーターでは世界第2位”(シンドラーエレベータ株式会社ホームページより)と自ら名乗る法人であろうとも、そののれんがどういった意義でこの国では編まれているのかを、行政が厳罰をもって再確認させるシステムがわたしたちの国にはうかつにも欠けていたようです。

未来がまだ始まる前に失われてしまった若い命がそれを教えてくれています。




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