泉の底に思想を用意しよう

東名の料金不払い514回、値上げ反対団体会員を逮捕(サンスポ)
東名高速道路を旧料金の通行宣言書を渡しただけで通行したとして静岡県警は9日、道路整備特別措置法違反容疑で沼津市岡宮、会社員、松井謙容疑者(28)を逮捕した。県警によると同様の宣言書は通行料値上げ反対を主張する市民団体「フリーウェイクラブ」の会員が使用。松井容疑者は「会員登録したら宣言書が送られてきた。悪いと知りながらずるずる続けた」と供述している。」

道路整備特別措置法の第24条3項をご覧下さい。

第24条(通行方法の指定)

「3 会社等又は有料道路管理者は、この法律の規定により料金を徴収することができる道路について、料金の徴収を確実に行うため、国土交通省令で定めるところにより、国土交通大臣の認可を受けて、料金の徴収施設及びその付近における車両の一時停止その他の車両の通行方法を定めることができる。この場合において、第一項本文の規定により料金を徴収される自動車その他の車両は、当該通行方法に従つて、道路を通行しなければならない。」 

道路特定財源の最初の根拠法、道路整備臨時措置法が国会に提出されたのが1952年。

その法案を作ったのが田中真紀子さんのお父さん、角栄さんであり、当時なんと若干34才でした。

(彼は実に31件の議員立法を成立させています。)

道路整備臨時措置法は揮発油税道路特定財源に充て、道路整備5カ年計画を策定するというものでした。

彼は臨時措置法のほか新道路法(県道を国道にして国費を投入すること)、そして道路整備特別措置法を手がけ、これらが通称道路三法と呼ばれています。

高速道路建設に財政投融資を投入するという道路整備特別措置法は、明治時代から開発が後回しにされていた日本海側出身であった角栄さんの怨念が根源にあったのだといいます(参照:法律はこうして生まれた 読売新聞政治部 中央公論新社

その道路整備特別措置法では、受益者負担という考え方と償還主義という考え方が骨格になっています。

受益者負担とは恩恵を受ける人に開発費の返済を負担してもらおうという考え方、償還主義とは開発費が料金収入で返済できたら、あとは無料開放する方式のことで、どちらも日本の高速道路の原則となっています。

返済というのは日本の最初の高速道路が、世界銀行からお金を借りて作らなければならなかったからです。

最初の高速道路、名神高速東名高速をつくるために借りた借金は、1990年に世界銀行へ返済が終わっています。

しかし1972年の田中内閣により建設の終わった料金収入を新しい路線の建設資金に流用する「全国料金プール制」が導入されたため、償還主義というゴールを霧で見えなくなるまで遠くし、ゴールテープが本当に用意されているのかさえ怪しくなっています。

しかしそうはいってもあれだけのコンクリートの巨大建造物、料金を徴収しないでどう維持していくのかと思われるかも知れません。

しかし道路の建設には2001年の時点で年間12兆円、実に日本の税収の4分の1が予算が用意されており、高速道路にはそのうち2兆5000億円が投入されています。

(以上参照:高速道路はタダになる! 山崎養世 新風舎)。

問題の核心はこの巨大なパイを待ち受けている人達が日本全国で手ぐすねを引いており、現実に高速道路へではなく、各地の一般道路へそれらの大半が割り振られてしまう点にあります。

とはいえ改正された道路整備特別措置法24条3項後段は高速道路のただ乗りを許していません。

償還主義という道路が角栄さんの残した霧で見えなくなっているとはいえ、それが取り決めであればただ「気に入らないから従わない!」という言い草はゆるされず、悪質なドライバーを県警が逮捕するという一幕も必要なのかもしれません。

しかし予算という制度で税をコントロールするはずが、財政投融資というわたしやあなたに手出しの出来ない”出費のフリーウェイ”がわたしたちの頭上を通り抜けているのだとしたら、料金不払い団体の可否よりもそちらのほうに意識を集中すべきはずなのです。

整備された道路や空港を用意することが急務だった頃、税というものが内閣に「ただわけもなくコンコンと湧いてくる無限の泉」だと仮定することが許された時代がありました。

しかし今、こどもたちの数が少なくなっていく未来がはっきりして、泉の底のわたしたちにはいずれにせよ納税者としての思想が要求されています。

そうでなければいま公園で遊んでいるこどもたちが大人になったとき、小さくなった泉の前でバケツをもって並んでいる「道路計画」という行列に、ただ呆然とさせてしまうだけかもしれません。



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