公判前整理手続という法廷のトリセツ

堀江被告の保釈認める・地検は準抗告(日本経済新聞)
「同被告の公判について同地裁は、初公判前に争点と証拠を絞り込む公判前整理手続きの適用を決定。検察側が25日、立証する内容を記した証明予定事実記載書を提出したのを受け、第1回整理手続き期日を5月10日と決めた。同地裁は手続きの進展を踏まえ、保釈を認めたとみられる。」

刑事訴訟法の第316条の13をご覧下さい。

第316条の13

「検察官は、事件が公判前整理手続に付されたときは、その証明予定事実を記載した書面を、裁判所に提出し、及び被告人又は弁護人に送付しなければならない。この場合においては、当該書面には、証拠とすることができず、又は証拠としてその取調べを請求する意思のない資料に基づいて、裁判所に事件について偏見又は予断を生じさせるおそれのある事項を記載することができない。」 

あなたがもし六法全書をお持ちであれば、刑事訴訟法の316条を開いてみてください。

もしその後ろにすぐ317条が並んでいる場合、その六法はすでに旧型になってしまっています。

裁判員制度が平成21年にはじまることに備え、刑事訴訟法は316条の後ろに「第1節の2 争点及び証拠の整理手続」という条文群をすでに増設済みです。

その裁判員裁判では公判前整理手続が必要的に、つまり必ず行われると、裁判員法の49条に定められています。

行刑訴法はその予行演習的に、現在の裁判員を介さない刑事訴訟裁判であっても、必要と認められればこの公判前整理手続を適用していいことになっています。

刑事訴訟法廷というものは、人権の国家によるヤクザな扱いを手続によって回避しながら、それでも極力真実を発見しようという攻防が行われている場所です。

しかし裁判というもの、それぞれがそれぞれの言い分や証拠を持ち寄っていたのではいつまでも終わりません。

そこで訴訟経済、すなわちどれくらい少ない回数で効率よく結論に導いていくのかという観点が古くから手続法の一大テーマとなっています。

そのためにはお互いが証拠調べでどのような点とどのような点を証明しようとしているのかをすりあわせておかなければ、いったい事件解決のキモになる証明はどれなのかが、何回か開廷したあとでなければわからないことになります(実際旧刑事訴訟法はそのような状態でした)。

そのうえにこれからは必ずしも法律には興味がないかもしれない裁判員に選ばれた方々がたくさん刑事訴訟に関わってきます。

ただでさえ時間がかかる訴訟手続をスッキリ回転させるため、公判前整理手続は事前に争点を整理し、効率のよい審理計画を立てることを目的として新設されています。

そして今度こそ本当に訴訟手続の迅速化を実現するため、316条の13以下では、「公判前整理手続が適用されたら検察官は手持証拠を事前開示すること」という注目すべき条文群も設けています。

公判前整理手続ではこれを活用し、証拠開示等を繰り返すことで争点を整理していくのです。(参照:実務家のための裁判員法入門 現代人分社

六本木ヒルズ・レジデンスの若き住人が、公判前整理手続のOJT的適用により拘置所から帰ってきます。

しかしその関わりのなさそうなニュースは、三年後にひょっとしてわたしたちが裁判員として呼ばれるかもしれない刑事法廷を、手早く整理するために新設された制度によっているという点で、意外にわたしやあなたに繋がっていたりするのです。

 

 

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