ゾーン:廃墟の中の楽園

野生はチェルノブイリを意に介さない
Wildlife defies Chernobyl radiation(By Stephen Mulvey BBC News)
「"A lot of birds are nesting inside the sarcophagus," he adds, referring to the steel and concrete shield erected over the reactor that exploded in 1986. 」

(私訳)
「たとえばたくさんの鳥たちが石棺の内部に巣作りをしているんだよ」彼は1986年に爆発したリアクタを覆う、鋼とコンクリートのシールドを引き合いに出して言った。」

電気事業法の55条3項をご覧下さい。

第55条(健全性評価の義務)

「3 定期事業者検査を行う特定電気工作物を設置する者は、当該定期事業者検査の際、原子力を原動力とする発電用の特定電気工作物であって経済産業省令で定めるものに関し、一定の期間が経過した後に第39条第1項の経済産業省令で定める技術基準に適合しなくなるおそれがある部分があると認めるときは、当該部分が同項の経済産業省令で定める技術基準に適合しなくなると見込まれる時期その他の経済産業省令で定める事項について、経済産業省令で定めるところにより、評価を行い、その結果を記録し、これを保存するとともに、経済産業省令で定める事項については、これを経済産業大臣に報告しなければならない。」 

チェルノブイリ原子力発電所事故は1986年4月26日、旧ソ連ウクライナ共和国で起きました。

外部電源が遮断された非常時のための実験を行おうとしていた作業員達はこれに失敗、原子炉は暴走し原子力発電史上最大の爆発を起こしました。

人類は原子炉をすべてコンクリートで埋め固めてしまう対処療法以外になす術をもたず、あとは百年単位で放射能が自然除去されることを待つしかありませんでした。

そのコンクリートで固められた元4号炉を通称「石棺」と読んでいます。

いまもそこでは高濃度の放射能汚染が続いており、横切るのは野良犬の姿だけだ、たしかそう最近まで伝えられていたはずですが、実はそこでは野生がもっとも恐れる天敵、人間が存在しえない聖域として、多くの野生動物の楽園が編纂されはじめているのだとBBCが新たに伝えています。

夢が全てかなうという謎の空間、”ゾーン”をアンドレイ・タルコフスキーが79年に描いたSF映画『ストーカー』では、廃墟のなかのその不思議な空間だけはカラーで描かれましたが、まさにそれを地でいくかのように、人間にとっては最も恐ろしいはずの空間の中心で色鮮やかな野生の命の饗宴が、人知れず始まっているようです。

日本の原子力発電所でも安全を期するため、定期的に停止して定期検査を行うことが法律で義務付けられていますが、実は過去においてその定期検査中にみつかった不具合などが国家に報告されていない事例が多数みつかりました。

これをうけて電気事業法は平成14年に改正され、55条には発見されたひび割れ等の進展を予測し、安全性の評価を行う「設備の健全性の評価」を義務づける”3項”が新たに追加されています。

わたしやあなたの住む場所に人の近づけない灰色の廃墟が現れ、その中に極彩色の人外魔境、”ゾーン”が現れること、電気事業法55条3条が禁忌と見るのもそうした状況です。

法理メール?