法隆寺が問いかける命題と証明の失敗

法隆寺の東大門に落書き、文化財保護法違反容疑で捜査(Yahoo)
「19日午前11時45分ごろ、奈良県斑鳩町法隆寺で、東大門(国宝)のヒノキ製の柱に「みんな大スき」と彫られた落書きがあるのを土塀を測量していた県教委文化財保存事務所職員が見つけた。県警西和署は、悪質ないたずらとみて文化財保護法違反などの疑いで調べている。調べでは、落書きは縦約50センチ、幅約8センチ。高さ約1メートルの位置で、石のような硬いもので刻まれたらしい。寺によると、午前7時の開門時には異常はなかったという。法隆寺では今年2月、西室(同)の木製格子が切り取られ、室内にあった文殊菩薩(ぼさつ)像(同)の模像が盗まれる事件が起きている。

文化財保護法の195条をご覧下さい。

第195条

重要文化財を損壊し、き棄し、又は隠匿した者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は30万円以下の罰金に処する。」

文化財保護法とは、文化財を保存・活用し、わたしやあなたの文化的充足を図るとともに世界文化に貢献することを目的として制定された条文群です(1条)。

文化財保護法が保護する文化財は、有形文化財無形文化財民俗文化財、記念物、文化的景観、伝統的建造物群に分類されます(2条)。

法隆寺の東大門は単なる重要文化財ではありません。

それは重要文化財の中から、とくに価値の高いものを文化審議会の答申にもとづき指定された国宝です。

そもそもこの文化財保護法は、今回らくがきが刻まれた法隆寺自身の昭和24年に起きた火災が契機になって立法されています。

このときの火災は1300年の歴史を持つ壁画を一瞬で瓦礫と化しています。(その日、1月26日は今も「文化財防火デー」として定められています)

みんな大スき」というフレーズは思春期に近い人の犯行を想像させますが、思春期とは一面で、自分の責任と自分を囲む状況との関連性をなんら実感できない季節だともいえます。

そこに用意されているアスファルトやビルディングや車や学校や東大門のような重文化財は、物心がつくとすでにそこに用意されていたものであり、それを毀損することの責任が自分自身にペイバックされることをイメージし難いものです。

失敗を経験した絶対時間数が少ない以上、それは無理からぬところがあります。

天才にとって状況との接続性を実感できない季節は、格好の創造の舞台となるかもしれませんが、たとえばわたしのような凡人にとってそれはお寺さんの門に思い出を刻んでみるようなちょっとしたスリルによる暇つぶしが必要な季節であったかもしれません。

今後どうすれば結果として文化財を落書きから守っていけるのか。

それは誰でもない、自分の状況と自分の責任の接続性をすっかり認めているわたしやあなた、そして文化庁に対して法隆寺から何度も問いかけられている命題だといえます。

少なくとも文化財保護法という公理では国宝の安全という命題を証明できていないことを、認識すべき時期にはきているようです。