複利:見えざる地上の主

金融庁、アイフル全店の業務停止命令へ・3―25日間 (日本経済新聞)
金融庁は13日、消費者金融大手アイフルに対し、強引な取り立てが相次いだことを理由に、国内約1700のすべての営業店舗を対象に3―25日間の業務停止命令を出す方針を固めた。消費者金融大手に対して全店を対象に業務停止を命じるのは初めてで、異例の厳しい処分になる。消費者金融の規制強化の議論にも大きな影響を与えそうだ。 行政処分は14日にも発表する。強引な取り立てのほか、契約者から無断で委任状を取っていたことなどが貸金業規制法に違反したと判断したもよう。業務の停止は、違法な行為があった北海道や九州など5店が20―25日間、その他の全店が3日間。業務停止期間中も開店し、利用者の自主的な借金返済を受け付けるが、新規の貸し出しや勧誘、貸し出しの回収などそのほかのすべての業務ができなくなる。」

貸金業規制法の20条をご覧下さい。

貸金業の規制等に関する法律

第20条(白紙委任状の取得の制限)

貸金業を営む者は、貸付けの契約について、債務者又は保証人から、これらの者が当該貸付けの契約に基づく債務の不履行の場合に直ちに強制執行を受けるべきことを記載した公正証書の作成を公証人に嘱託することを代理人に委任することを証する書面を取得する場合においては、当該貸付けの契約における貸付けの金額、貸付けの利率その他内閣府令で定める事項を記載していない委任状を取得してはならない。」 

貸金業規制法は、サラ金問題がきっかけになり、貸金業者について登録制を実施し、業務の適正な運営を図り、資金需要者の利益を保護することを目的に、昭和58年に作られました。

同法は貸金業者に契約条件を店内掲示させ、契約時には書面を作成・交付させ、これらに違反、または誇大広告、威圧的取立てをした時には、行政上または刑事上の制裁を与えます。

その20条では、白紙委任状をとることを厳格に禁止しています。

20条にいう委任状とはお金が払えなくなったとき強制執行を受けますという公正証書の作成を委任してしまう書面のことです。

本来、委任状には、当該貸付の契約における貸付の金額、貸付の利率その他内閣府令で定める事項が記載されていなければなりません。

20条は貸金業者に債務者や保証人から、法定事項を記載していない委任状を取得してはならないというちゃんとしたきまりを課しています。

ただ継続的に金銭を借りたり返したりする契約では、一定期間の間、借りている元本の額が増えたり減ったりすることがあります。

もし債務の根保証について、限度額さえ定めてあったならば、最初に作成した委任状に元本金額や利息などが未記入だとしても 20条違反にならないという解釈は果たして成り立つでしょうか?

もしあなたが登録貸金業を営んでいて、根保証は元本金額を特定することが不可能である以上、白紙委任状も20条違反にならない裏技だと考えていたとしたら、その解釈は全く誤りです。

釧路地方裁判所も平成9年9月29日に次のごとく判示しています。

「右委任状により作成が嘱託されるべき公正証書の内容については、少なくともその債務の元本金額が未確定であったものというべきである。

そして、その後、原告と被告会社との聞で、執行認諾の対象となる債務額を確定した上で公正証書の作成嘱託が委任された事実を認めるに足りる証拠もない。

そうすると、原告の委任により被告会社がなすべき代理行為の内容が一義的に確定していないことになり、原告の代理人として選任された被告会社の従業員が最終的に公正証書に記載されるべき原告の連帯保証債務額を決定することになるから、そのような本件公正証書作成嘱託の代理行為は、民法108条の規定する双方代理の禁止に抵触する無効なものというべきである。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件公正証書は無効なものといわざるを得ない。」(以上参照:新版 判例貸金業規制法 みやこ法律事務所 長尾治助 法律文化社

たとえそれが根保証だとしても、白紙委任状や意に背く委任状のやりとりは条文の解釈レベルではなく法の趣旨がゆるさないのだと法廷で言い渡されることになります。

すると白紙委任状が存在することは貸金業者不法行為となり、業者は逆に損害賠償責任を負うことになります。

つまり白紙委任状なるものは、そもそも渡してしまったと自らを責めるまでもなく、貸金業規制法によって業者はそれを受け取ることを禁止されているのです。

子犬のコマーシャルで有名な貸金業者がビジネスとしての冷静さを失ってしまったように強烈な取り立てや無断委任状の取得の疑いで金融庁から営業停止処分を受けました。

利子というガーゴイルのようにささやかな存在が、複利計算という翼を得て国の空を覆うまでに育ち、貨幣自身の増殖欲求が貸方や借方である人間を翻弄してしまうことを見越していたように、約2000年前に新約聖書は利子の放蕩を戒める言葉を残しています。

「しかしあなた方は敵を愛し、人によくし、何も当てにせずに貸しなさい。すれば褒美は多かろう。」(ルカ福音書6-35)