税徴職員が吐かせるSLの煙

市税滞納で差し押さえのSL模型、ネットで公売へ(朝日新聞)
「戦時中に零戦を作った旋盤工が趣味で制作したという蒸気機関車D51の10分の1の模型を、北海道赤平市がインターネットを使って公売にかける。3月、市税滞納者宅でガラスケース入りのD51を見つけ、差し押さえた。長さ2メートル、重さ約300キロ。同様の模型は、ほかにはほとんどないという。」

税徴法の47条をご覧下さい。

国税徴収法

第47条(差押の要件)

「次の各号の一に該当するときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない。

一 滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して十日を経過した日までに完納しないとき。(以下略)」 

国税徴収法とは、国税の徴収に関する基本法です。

しかし国税徴収法の規定する滞納処分の手続は、地方税はもとより、多くの公法が金銭債権の徴収のために各条文で準用されていますので、税徴法は公法上の金銭債権の強制徴収に関する事実上の基本法になっています。

国税地方税などの租税が納期限までに完納されないとき、履行の催告の意味でまず督促がなされます。

さらに督促状を発した日から起算して 10日を経過した日までになお完納されないときは、滞納者の財産の差押えとその換価を経て配当に終わる手続を行います。

(ただしその執行によって生活を著しく窮迫させるおそれがあるときには、職権による滞納処分の執行の停止が認められています。)

これを滞納処分と呼びます。

一定の財産の差押えをしたときは,差押調書を作成してその謄本を滞納者に交付します。

差押財産の換価は原則として公売の方法によらなければならないことになっています。

公売の結果、最高価申込者に対して売却決定がされ、代金が納付されると換価財産の所有権は買受人に移転します。[以上参照:法律学小辞典 有斐閣]

国家による私財のむやみな差押えを許さないよう定められた、税徴法の厳しい要件に関係債権者や本人の権利を守られながら、腕利きの旋盤工の手によるというD51の模型の換価が許されることになりました。

徴収職員はD51がその場所にある必要性はないと判断したことになります。

納税義務の適正な実現を通じて租税収入を確保するという、税徴法の立法趣旨が、重厚な10分の1のD51を現在のふさわしい居場所にまで短い旅をさせます。