ロボットスーツと野口健さんが見せる強い未来

ロボットスーツで日帰り登山 障害者背負いアルプスへ朝日新聞
アルピニスト野口健さん(32)=東京都在住=を隊長とする登山隊が8月上旬、歩行が困難な障害者2人を背負って、スイスアルプスのブライトホルン(約4160メートル)に日帰り登山する。隊員の体力消耗を抑えるため、モーターの力で歩行を支援する「ロボットスーツ」を一部の行程で使う計画だ。ロボット工学が専門の山海嘉之(さんかい・よしゆき)・筑波大教授が協力する。 」

刑法の211条第1項をご覧下さい。

第211条〔業務上過失致死傷等〕

「1 業務上必要な注意を怠り,よって人を死傷させた者は,5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も,同様とする。(以下略)」 

誰もが知っているように、登山はとても危険を伴うスポーツです。

山を目指す人はこれを納得ずくで山に登りますが、このことを危険引受の法理と呼びます。

これを踏まえて、登山における事故は他の事故と別な法的判断がとられるのだといわれます。

つまり,故意又は重大な過失による行為でない限り、登山事故に関わった行為は容認されるという考え方です。

しかし如何に危険を納得ずくといえども、同意できない危険というものは存在します。

たとえばリーダーのいい加減な状況判断やその他通常の注意を払えば当然わかりきった危険を不注意のために予測できず危険に陥ったのだとしたら、危険引受の法理を乗り越えてリーダーは責任を問われることになります。(参照:高みへのステップ 登山と技術 文部省刊

身体能力が一般よりも欠けてしまった方々を山に連れて行くなら、リーダーには尚一層の注意義務が課されるといえるでしょう。

刑法の211条はその業務上の注意義務違反で人を死傷させたときに問われる責任です。

業務といってもなにも山岳ガイドでなくともよく、人の普通の活動は大抵業務であると呼ばれます。

登山の引率指導者には上記注意義務が要求されます。

いかにトレーニングを参加者全員で積み、さらに危険引受の法理が適用される山だとはいえ、歩行が困難な方を引率すれば過大に課されることになる注意義務をあえて背負って、野口さんと障害を持った方々は新しい挑戦に挑みます。

社会的なリスクを負うことがあっても、あらゆる境遇の人の目線を山の上にまで運ぼうという野口さんのパワーは考えれば考えるほど並のものではありません。

そしてもしこうした人が存在しなければ、明日不測の事故で歩行が困難になるかもしれない誰もがその後非常に狭い世界を強いられることになるのです。

いつも野口さんがメディアに出演されると、その壮絶な登山の現場の話に耳をそばだてずにはいられません。

わたしたちはアルピニスト(哲学的登山家)、野口健さんという人の本当の偉大さをもっとよく理解すべきなのかもしれません。