薬事法68条は意思の力のデッドエンド

人類、肥満と戦う (MSN news)
サプリメント大国のアメリカでは、この止め難い食欲を止めてしまう抗肥満薬が販売されている。脳に働きかけ、食欲そのものを抑制するのだ。「オベスタット」や「リダクティル」が代表だ。肥満の原因となる脂肪の吸収を抑える薬もある。脂肪分解酵素のリパーゼの働きを抑制する。「ゼニカル」がその代表だ。服用すると約30%の脂肪が吸収されずに排出される。さらに現在開発中の新薬は発想がまったく違う。脂肪細胞そのものを殺してしまうのだ。特殊なペプチド(アミノ酸の集まり)を使って、脂肪細胞に血液を送る血管だけを塞いでしまう。血液が流れなくなった脂肪細胞はほどなく死滅し、その分体重も減るのだ。マウスでの実験では、体重が通常のマウスの2倍もある肥満マウスに新薬を投与した。するとほぼ1カ月で肥満マウスの体重は標準に戻ったという。 」

薬事法の第68条をご覧下さい

第68条(承認前の医薬品等の広告の禁止)

「何人も、第14条第1項又は第23条の2第1項に規定する医薬品又は医療機器であつて、まだ第14条第1項若しくは第19条の2第1項の規定による承認又は第 23条の2第1項の規定による認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能
に関する広告をしてはならない。」 

1958年、イソミンという名前の睡眠薬が日本で販売されました。

しかしこれを妊婦さんが飲むと生まれてくる赤ちゃんの手足などに不幸な症状があらわれることが徐々に分かり始めました。

製薬メーカーと当時の厚生省は、すでにその成分の危険性を察知した世界からの忠告を無視しつづけ、大人たちの怠慢の間にたくさんの負わなくて済んだハンデを負わされてしまった被害児たちが生まれました。

これがいわゆるサリドマイド薬禍事件です。

医薬品は、治療や予防に欠かせないものですが、同時に生体にとっては異物であり、その薬理作用は往々にして副作用を発現させる場合があります。

それどころか厳密にいえば、どのように優れた薬にも副作用は存在しています。

よって生きていく上で不可欠な薬をより安全に用いるために、わたしたちから権力を付託された国家は十分に効能と副作用が衡量された医薬品だけを市場に供給するようコントロールする必要があります。

これが薬事法の法理です。

近年、国内にはない健康関連のユニークな外国製製薬を入手するため、個人輸入代行サイトが密かな人気を集めています。

記事中の食欲抑制剤、オベスタットやリダクティルなども、現実的にはその入手をインターネットを通じて個人業者からの輸入代行に頼ることになります。

輸入代行業務自体は、薬事法に基づく許可等が必要な業務には当たりません。

しかし、日本で未承認の医薬品・医療用具等の広告を行うことは、薬事法の68条が禁止しています。

国家がリスクバランスをとっていない薬剤である以上、それを経口投与することは丁半博打と本質的には変わりがないからです。

薬剤が体にとって不可逆の悲劇を起こしてしまったとき、事実上どこにもその損害賠償を請求する筋道がつけられていないというリスクを十分飲み込むことを、最近では「自己責任」と呼んでつきはなしています。

サリドマイドの不幸からこちら、わたしやあなたは薬事行政が厳正に執行されるようになったと信じこんでいましたが、製薬メーカーと薬事行政の眠い関係は薬害エイズ問題においても全く同じ構図を見せました。

わたしたちの意思の力は、それが民主制で運営されるはずの国内行政にあっても、いまだ十分なコントロールを発揮できる段階を迎えていません。

それが海外の名も知らぬ土地の工場から、顔も知らぬ代行業者を通して送られてくる薬剤であれば、資本の論理がわたしたちの意思の力をあっけなく切断していることは推して知るべきです。