送金メールの真偽と一票の換金性

振り込み事実なら公選法違反、背任(日刊スポーツ)
堀江被告が武部氏二男に3000万円を振り込んでいたのが事実だとすると、公職選挙法違反に問われる可能性がある。公選法第189条では、選挙期間、前後を問わず、選挙に関して掛かった費用は収支報告書に記載、報告しなければならない。メールにある「選挙コンサルティング費」も収支報告書に記載する必要があるとみられ、記載しなければ虚偽記載に問われる。また、二男から武部氏に金が渡っていた場合は、堀江被告の選挙応援の対価としての金銭の供与となり、公選法第221条(買収)に触れる可能性もある。また、振り込みにライブドアの金が使われていれば、商法の特別背任にあたる可能性もある。」

公職選挙法の221条第2項をご覧下さい。

第221条(買収及び利害誘導罪) 

「次の各号に掲げる行為をした者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
二 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対しその者又はその者と関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の直接利害関係を利用して誘導をしたとき(以下略)」 

選挙運動をする自由は憲法の21条1項、表現の自由で保障されていると考えられています。

しかし選挙運動の自由といえども、戸別訪問の禁止、選挙に関し報道評論できる新聞紙・雑誌の制限、法定外文書図画の頒布制限、事前運動の禁止など数々の制約に服することを課されています。

現実にそれらの行為を規制するのが公職選挙法です。

公職選挙法とは、選挙の自由と公正を確保するための法律であるのだと、その一条にうたわれています。

本来表現の自由で保障されるはずの選挙運動をする自由を規制する公職選挙法の目的に、合憲性が認められるかについて、運動の自由をすべての候補者に平等に確保し、とくに資金のない候補者にも対等の立場で運動できる自由を保障することによって、民主政の過程を純化する必要にかんがみれば、そうした規制目的にも一定の合理性は認められるのだと考えられています。

公職選挙法がとくに金銭面について規制しているのが、その第一四章(選挙運動に関する収人及び支出並びに寄附)です。

たとえば当選を目的に選挙運動者と関係のある会社などへ寄附等を行ったとみなされれば買収および利害誘導罪として三年以下の懲役もしくは禁固または五〇万円以下の罰金と決められています。

いうまでもなく、それらの条文は議会政治を構成させるために長い時間をかけて私たちのもとにもたらされた貴重な普通選挙・平等選挙という権利を、金銭売買の対象にしないためのものです。

しかもとくにそれが法律で警戒されるのは、長年その貴重な権利が軽々しくも金銭で長くやりとりされている慣習をどうしても日本人が払拭しきれない現実のためでもあります。

敗戦直後、日本政府は総司令部に従属し、その指令と承認の下に行動しなければなりませんでしたが、圧倒的指導を受けた民主新憲法の立案にくらべ、選挙法に対しては介入の程度がきわめて少なかったという記録があります。

議会はバリバリの民主主義者、マッカーサーからしてみればその国の国民を代表する機関であり、占領当局としても議会に対しては行政の政府に対するよりは控え目な態度をとったのであろうといわれます。

しかしそうした中でも総司令部政治部のルースト少佐は、「財閥等より巨額の資金を放出し多くの議員候補者を支持し当選せしむることあり得」るとの意見を採用し、こと第三者の支出する費用にかぎっては、すべて選挙費用中に算入するようにすべきであると警戒しました。[参照:日本選挙制度史 杣正夫 九州大学出版会]

初動の時点から選挙権は金銭による影響を危惧されていたといえます。

一見紙のように軽い選挙権という権利が、その本質を歴史的な理解とともに汲み取られることはめったになく、世界諸国の選挙法の公理である普通選挙を日本人が手に入れてからこっち、選挙の歴史はずっと一票の換金性の高さとの戦いの歴史であったといえるかもしれません。

野党はデジタルデータのプリントアウトだけをもって与党幹事長の公職選挙法違反を問いただそうとしているようですが、送信時点でいくらでも送信者やアドレス等々の改ざんが可能なただのデジタルデータをもってして疑惑の証明力を争おうというのなら、それはあまり懸命ではないように思えます。

なぜなら事が公職選挙法違反を問うものだとしたら、それは議会制民主主義の根幹を揺るがすほどの深い罪を糾弾する責任を伴うからです。

しかしもしかすると疑惑の真偽はともかく、この騒動の過程においては占領当時のマッカーサーも見誤った日本式議会政治の土壌の正体と、選挙とお金の関係の現在をそれとなくあきらかにはしてくれるかもしれません。