アホウドリの恋の記録とつきまといの定義

アホウドリ:東京・伊豆諸島の「デコちゃん」、好きな模型に9年間も求愛(Yahoo)

「伊豆諸島の鳥島(東京都)に生息する国の天然記念物・アホウドリの「デコちゃん」(雄・推定年齢13歳)=写真左=が、島営巣地内に設置されたプラスチック製の実物大模型の「デコイNo22」を本物の雌と思い込み、約9年間も求愛行為をしていたことが5日、山階鳥類研究所我孫子市高野山)研究チーム主任の佐藤文男研究員(53)によって確認された。「No22」は5月に撤去される予定で、デコちゃんの熱愛は“実らぬ恋”として終結する。」

ストーカー規制法の第2条1項をご覧下さい。

ストーカー行為等の規制等に関する法律

第2条(定義)

「この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
一 つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること。(以下略)」 

ストーカー行為は被害者に大きな精神的苦痛を与え、またそのことで自分の内面の問題解決を図ろうとします。

ストーカー規制法が成立するまでは、つきまとい行為などはなので軽犯罪法迷惑防止条例が守備範囲とする軽微な犯罪としかとらえることができず、その結果たとえストーカー行為の被害を受けても現実的に警察は動いてくれませんでした。

しかし平成12年、「ストーカー行為等の規制等に関する法律」が成立し、二つの行為を取り締まりの対象にしています。

「つきまとい等」と「ストーカー行為」です。

ストーカー規制法にいう「ストーカー行為」とは、つきまとい行為等を繰り返しておこなうことをいいます。

もう一方の「つきまとい行為」のほうはは細かく八つに分けられており (1)つきまとい・待ち伏せ・押しかけ (2)監視していると告げる行為 (3)面会・交際の要求 (4)乱暴な言動(5)無言電話、連続した電話、ファクシミリ (6)汚物などの送付(7)名誉を傷つける(8)性的しゅう恥心の侵害と定義されています。

人間という生き物が自己だけでは恋愛感情の決着をつけられないとき、他人に向けて八つの定型行動を起こす可能性を秘めているのだと、ストーカー規制法は予言しているようです。

実らぬ恋を手に入れるため、憧れの人が暮らす部屋の窓の下に日参する行為を熱情と呼ぶのかストーキングと呼ぶのか、その規定の仕方によっては世の中が暮らしにくくなってしまう可能性もあったためか、社会はこれまでそうした行為を犯罪行為と呼ぶことに消極的でした。

しかしストーカー規制法が立派に成立して以降、つきまとったり押しかけたりする行為は刑事罰の構成要件を十分満たすことになっています。

そのことが私たちの暮らす社会にまたひとつ、安全な枠を設けているのです。

アホウドリのデコちゃんは産卵時期に帰島すると必ずプラスティック製の模型、No22の元に現れては、愛の巣作りと求愛行為を行っていたのだそうです。

別の雄アホウドリがNo22に近付いて求愛ダンスした時には、激しく威嚇もしたのだとか。

しかし5月にデコイNo22が撤去されてしまえば、研究者という”神の手”によってデコちゃんのつきまといは否応なく終わらされることになります。

時に歯止めのきかない人間のつきまといに比べ、被害者も出ず、かといって実るはずもなかったデコイとの恋愛に向けてただ残されたアホウドリのつきまといの9年間の記録の場合は、ここではただ綺麗な軌跡を描いたように見えます。