自己重要感:喉が渇くほど欲しいもの

「自宅で食事与えた」の女性証言はウソ 長野の小5不明朝日新聞
「女性は5日夜、110番通報で「4日午後9時ごろ、自宅近くで少年を見つけ、自宅で食事をさせた。その後、少年は若い男女が乗った白いワゴン車に乗せてもらった」とする証言を寄せた。同署は竜桜君にほぼ間違いないと判断し、情報を公開した。 しかし、矛盾点が出てきたため引き続き事情を聴いたところ、8日夜、「少年とは会っていない。報道を見て創作した」とうそを認めた。「迷惑をかけて反省しています」と話しているという。 」

軽犯罪法の1条16号をご覧下さい。

第一条

「左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

 十六 虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者」 

虚偽申告は軽犯罪法上で規定されています。

軽犯罪法は刑法上の犯罪を構成するほどのものではなく、日常生活に有害で放任できない軽微な犯罪を取り締まるために昭和二三年以来施行されている法律です。

軽犯罪とされるものは、他人につきまとったり、他人の進路に立ちふさがったり、汽車の電車に乗るための行列に割り込んだり、ラジオの音などを異常に大きくしたりといった行為も含んでいます。

刑は拘留(三〇日未満身柄を拘束される自由刑)または科料(一〇〇〇円以上一万円未満の財産刑)です。

必ず裁判手続を経たうえで刑が決められ、この場合、裁判所は情状によって刑を免除したり、拘留と科料を併科することもできます。

[出典:自由国民社 図解による法律用語辞典]

虚偽申告、虚偽証言をめぐっては、白黒の司法映画に痛烈にその本質を切り裂いた場面を記憶しています。

”疑わしきは被告人の利益に”の意義を完全に描ききった名画「十二人の怒れる男」で、父親を殺したと目されている不良少年を電気椅子に送るべきかをめぐり、集められた12人の陪審員が密室で殴りかからんばかりに討議を交わします。

そこで”少年の殺人をはっきりと目撃した”と証言した75歳の証人について、”何故嘘の証言をする必要があるのだ”と有罪を主張する陪審員に対し、別の老齢の陪審員が” Attention, may be (きっと注目を欲っしているんだよ)”と言い返し、こう続けます。

「この人の気持ちはよくわかる。今まで静かにおびえながら生きてきた老人だ。人に認められることもなく新聞に名前も出ない。だれからも顧みられない。75年間だれからも意見を求められない。紳士諸君、これ以上悲しいことはないんだよ。人は生涯に一度は注目を集めたいんだ。自分の言葉を人が引用したら、どんなにうれしいだろう。本人は嘘をいっているつもりさえないんだ。多分少年が”殺してやる”と叫んだと、本当に信じこんでさえいるのだ(一部筆者私訳)。」

刑事訴訟法を学んだ人は、いろいろな動機を原因に、人の記憶がどれほど曖昧になっていくのかを徹底的に認識し直します。

それゆえ刑事訴訟法上、反対当事者の反対尋問の機会にさらされていない供述証拠である伝聞証拠の証拠能力は原則否定されているのです(320条1項 伝聞証拠排斥の原則)。

人の記憶は必ず減退し、動機次第で如何様にも変容します。

そしてそれは喉が渇くように自己重要感を欲する人間である以上、虚偽申告となって現れてしまい、それが思わぬ話に発展してしまう場合もあるはずです。



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