美しい女優の死と民法のトラックバック

原ひさ子さんが死去 名おばあちゃん女優徳島新聞
「映画、テレビドラマなどの脇役として活躍、「日本のおばあちゃん」として親しまれた女優の原ひさ子(はら・ひさこ、本名石島久=いしじま・ひさ)さんが4日午後9時32分、心不全のため東京都荒川区の病院で死去した。96歳。」

民法の882条をご覧下さい。

第882条〔相続開始原因〕

「相続は,死亡によって開始する。」 

人は生まれればすぐ民法1条の3をもって私権の享有を認められ、この社会で財産を殖やしていくプレーヤーの一員であると認められます。

6歳になれば学校教育法22条がその保護者に義務教育を受けさせる義務を負わせます。

そして男性は18歳、女性は16歳になれば民法731条が婚姻の資格を与え、20歳になれば公職選挙法の第9条により選挙権が与えられます。

その後40歳になれば介護保険法10条が介護保険被保険者の資格取得を認め、60歳になるまでは高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の8条が事業者から定年にされることを保護してくれます。

65歳になれば国民年金法がその26条で年金の支給を宣言しますし、最期に、お亡くなりになると民法はその882条によって相続の開始を宣言します。

すなわち人の死は民法上、「相続の開始」として表現され、故人そのものは民法の直接考慮対象から外されることが宣言されるのです。

(ただし亡くなった方が全て法律の考慮から外されるわけではなく、たとえば著作権は、著作権者の死後50年間保護されることになっています(著作権法51条2項)。)

いうまでもなく民法は、”生きている人同士が、どうやって幸福になっていくか”のためのルールですので、故人へのケアは”残した財産の移行、すなわち相続”という形でしか術を持ちませんし、残された社会のためにもその財産に対する権利の空白を許しません。

あなたやわたしが明日社会からいなくなってもその発展を辞めさせないために、民法は生きている命だけに対して要所要所でトラックバックしつづけていくのです。

原ひさ子さんという、老いて尚とても美しかった女優さんがお亡くなりになりました。

民法882条自体は、既に原さんを直接の考慮対象としないことを宣言しますが、そのことと我々が故人の女優として残されたやわらかい歩みを賞翫することはまったく別の次元にあります。

自分のルールで生きた人のカタチは、名前のない遺産を常に後人全てに残していってくれているのです。

法理メール?