トイレの的とアウトカムの効用

関空トイレ、美化的中 男心射抜いたダーツの「的」朝日新聞
「直径3センチの丸いシールが関西空港のトイレの美化に威力を発揮している。男性用小便器に張られた「ターゲットマーク」。的があると狙いたくなる人間心理に目をつけ、便器の外にこぼれるのを防ごうという試みだ。1年前に職員の提案で始めたところ、効果はてきめん。」

民事訴訟法の166条をご覧下さい。

第166条(当事者の不出頭等による終了)

「当事者が期日に出頭せず,又は第162条の規定により定められた期間内に準備書面の提出若しくは証拠の申出をしないときは,裁判所は,準備的口頭弁論を終了することができる。」 

民事訴訟における準備的口頭弁論とは、法定での本格的な言い争いに先だって円卓について行われる、ざっくばらんな争点整理のための話し合いです。

争点整理とは、「この裁判でどういう点を争うべきかをはっきりさせる」ということです。

そして残すは証拠調べのみという段階にまで話し合いが成熟すれば、裁判所は準備的口頭弁論を決定で終了させます。

裁判所がその話し合いを終了させる権限をもたせることの意味は、そのことで原告と被告に終わりのない主張のしあいをさせることを自戒させ、話し合いに目的意識を持ち込むものであるといわれています。

民事訴訟法においては、できうる限り妥当な結論を導き出すという目的もさることながら、裁判所という公共の器を使用する以上、だらだらといつまでも非効率的な使用の仕方は避けるという「訴訟経済の効率化」といった大命題が存在しています。

それは各人の時間が有限である(皆必ず死ぬ)という唯一間違いのないルールが下敷きになったものでもあります。

皆寿命があるのに、裁判が何十年もかかるものならば、「裁判所など使わない方法によるほうが」という発想が社会に根付いてしまうかもしれません。

各人が「裁判所による時間限定という枠の中で、争点をはっきりさせる」という目的意識をもって民事訴訟に参加することが、裁判所という公器をより効率的に回すのだというのが民訴166条の趣旨だといえます(私見)。

人と人がいっしょになにか形在る物を作りだそうとするとき、必要なのは各人が目標ではなく目的に意識的になることとそのすりあわせだといわれます。

目標というあやふやな的では私たちは事は成し遂げられず、まるで鉛筆の先のようにシャープに削りだした各人の目的、「アウトカム」をイメージして、お互いに確認することで私たちにはともに目指す場所に到達することが確約されるというわけです。

逆に言えば私たちの大脳新皮質は、アウトカムがはっきり提示されれば、それに向かって走ることを止められない特質さえもっているワケもなく生産的な臓器だといえます。

社会のあらゆる問題に対して、適切な問題解決のためのアウトカムが貼られれば、関西空港のトイレの美化がいつのまにか実現してしまったように、私たち自身の持って生まれた特質が問題を本能的に解消してしまっているかもしれませんし、人間とはきっとそのために生まれてくる存在なのかもしれません。
 


法理メール?

Copyright © 2005 恵比寿法律新聞