同時多発テロを利用した日本人詐欺師と恥という対価

日本人2人、米に引き渡し 同時多発テロめぐる詐欺容疑(朝日新聞)
法務省によると、2人は01年10月から02年5月にかけて、テロ事件による転居などで損害を受けたと偽り、民間慈善団体から約150万円の被害支援金をだまし取ったほか、米中小企業庁から被害支援ローン約1億円をだまし取ろうとした疑い。」

日米犯罪人引渡条約の第5条をご覧下さい。

日本国とアメリカ合衆国との間の犯罪人引渡しに関する条約

第5条

「被請求国は、自国民を引き渡す義務を負わない。ただし、被請求国は、その裁量により自国民を引き渡すことができる。」

通常、どこの国でも他国への犯罪人を引渡す義務などありません。

いちいち他国の司法論理で自国民を引き渡していたのでは国家に主権はないに等しく、個人の人権の保障もあやうくなるからです。

それが行われるのは、犯罪人引渡条約か、国際的なおつきあいによるときです。

ただしそれが軽微な罪では引渡すことはありませんし、たとえば韓国で今も問われる姦通罪では、日本がその罪を既に廃止している以上、韓国に引き渡すことはありません。

そうでなければ、文明国刑法の基本原則である罪刑法定主義の有り様を描き出すことができないからです(私見)。

これが日米犯罪人引渡条約の第2条、双方可罰の原則です。

詐欺は日本の刑法でも10年以下の懲役が定められている非常に重い罪であり、他国へ引き渡す時の双方可罰の原則を侵害するところではありません。

行為者にあっては、そうした重大な行為が他国に置いても重罰に処せられることを知っていて然るべきだからです。

今回の男女は、大規模なテロルによって他国の国家が騒然としながらも、再度立ち上がろうとするその狭間を狙って補償金をかすめ取ろうとした疑いがもたれています。

かつて日本人が遺伝子情報のスパイだと疑われた事件では、東京高裁が「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があるとは認められない」として引渡不可の決定を出しました。

日米犯罪人引渡条約5条本文を行使し、主権の影を濃く見せたといえます。

その事例に比べ、今回は我が国の高裁によって審議され、かつ法相が引渡に許可を出した以上、嫌疑は非常に濃厚であるといえそうです。

自国民をわざわざ自国の刑事司法から外して、他国の刑事司法に引き渡すなら、その前にどれほど慎重な事実認定があったかは押して図れるというものです。

詐欺というのは「騙そうとしてする行為」が構成要件として要求されますので、詐欺があるところには行為者の上手く騙せると踏んだ計算が存在したはずです。

しかし結局のところ、海の向こうで復興しようとする志をだまし取るような人が手に出来たのは、自国からの刑事司法的放出と、他国の刑事司法による断罪という二重の辱めだけだったようです。



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