ホワイトバンドに集まる批判と憂鬱な予言

ホワイトバンド:趣旨説明不足で購入者から批判(毎日新聞)
「世界的な貧困根絶キャンペーンに合わせて国内で300万個販売された腕輪「ホワイトバンド」に対し、購入者から批判が出ている。「売り上げの一部は貧困をなくすための活動資金となる」との触れ込みだったが、食料などを送るわけではなく、細かな使途も決まっていないため。」

民法の95条をご覧下さい。

第95条〔錯誤〕

「意思表示は法律行為の要素に錯誤ありたるときは無効とす(以下略)。」 

私の手元にユナイテッド・エアラインズの国際線航空路線図があります。

これによるとサンフランシスコやシカゴなど大都市の空港には、他の空港からの飛行経路が集中していますが、反対にホノルルやサンパウロなど大半の小さな空港には他空港からの飛行経路はわずかしか集まっていません。

スケールフリー・ネットワークとよばれる、均一なリンクを前提にしない世界において、極少数のノードだけが莫大なリンクを繋がれ、逆に大半のノードがごくわずかなリンクしかもたない状態を”ベキ法則”と呼びます。

このようなネットワークが成立するのは、そのようなリンクの集中するごく少数のハブが機能しているからです。

インターネットにおけるポータルサイト、すなわち利用者がまず最初に訪れるYahooのようなWebサイトに富が集中するのも、そのサイトがネットワークのハブとして重要な役割を獲得することに成功しているからにほかなりません。

そしてより重要なことは、先にハブの位置を獲得したポータルサイトは、時間が経過すれば経過するほど、どんどんその富の集中を加速させることができます。

なぜなら、後発の企業にくらべてリンクをためこむ時間をもっとも長く使えるためです。

このことを、ノートルダム大学教授のアルバート=ラズロ・バラバシは「金持ちはもっと金持ちに」なると表現しています(参照:新ネットワーク思考 アルバート=ラズロ・バラバシ NHK出版)。

成長するネットワーク、すなわちノードの数がどんどん増えていく地上の人口のようなネットワークでは、ベキ法則において例外的にリンクが集中する数少ない椅子、「ハブ」に座ることが、富の集中をその手にするゴールデンルールとなります。

かつての産業革命は、列強国に植民地政策を競わせ、南半球の多くの国が北半球の少数の列強国の経済を潤わせるためだけに植民地化され、解放されたあともその後遺症に今も苦しんでいます。

そして後遺症のひとつが「国家的貧困」です。

バラバシの解析したスケールフリー・ネットワークのルールによれば、いかにかつての植民地が独立をなそうとも、世界経済構造の構築における時間利益を喪失している以上、経済競争に後発で参加したノード(国)は、ベキ法則の前にあらゆる意味でリンク(財)を集めることができないのです。

我々がこの法則の前に、たまさかリンクの集中するハブとよばれるノード(国)に生まれたときはホッとして、多くのリンクの少ないノートに生まれたときは押し黙り宿命を受け入れるしかないとすれば、この世界は当たりの非常に少ないガチャポンになってしまいます。

これを修正できるのがなにをかくそう法律、つまり合意によるルールですが、万人、万国に一義的な法を適用すれば、結局それを上手く消化できる国や人間へ幸福が偏在してしまうことを私たちは既に経験済みです(自由国家時代)。

世界単位の富の偏在、食料や燃料の企業によるコントロールを将来的に拒絶するには、個別対応が可能なよりやわらかい法律の制定が必要ですが、その前にそれを可能にする個人単位での「生死に関わる貧困は他国の出来事でも拒絶する」という意識の定着が素地として要求されます(私見)。

そしてホワイトバンド運動とは、まさにその意識を波及させるためのものであったと記憶しています。

すわなちその運動は、富の偏在に目をつぶらないという意思表示を各人にしてもらうことに意味があったはずなので、売り上げが直接的に貧困問題に悩む国へ渡らないことは運動のルーツとしては問題がないはずなのです。

しかしバンドを買った人の大半が募金のつもりであった以上、より精密にいえば購入者は民法95条における動機の錯誤があったことにはなります。

(ただし通説・判例はその場合もその動機が表示され,又は相手方がこれを知っているときでなければ錯誤の規定の適用を否定しますので、返金を要求できるわけではありません。)

いずれにしろひとつの思想運動は、問題解決のためのひとつの試行方法にすぎません。

資本主義世界に住む私たちは、「富の偏在」という避け得ない持病を解消するという命題を未だ達成できておらず、スケールフリーネットワークモデルが解析される遙か以前、マルクスケインズによってなされた憂鬱な予言から、一歩も外にでていないのです。
 


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