和泉元彌さんのプロレスデビューと乾いた薪

和泉元彌がプロレスデビュー!芸能人3人目のファイターに(サンスポ)
狂言師和泉元彌(31)=写真上=が11月3日にプロレスデビューすることが11日、分かった。」

民法の709条をご覧下さい。

第709条〔不法行為の要件と効果〕

「故意又は過失に因りて他人の権利を侵害したる者は之に因りて生じたる損害を賠償する責に任ず」

和泉元彌さんはかつて、能楽に係る演能会等の事業を行う社団法人とその理事らの行ったマスコミに対する記者会見で「和泉元彌氏は宗家ではない」という発言をされ、名誉を毀損されたとして損害賠償等を求めています。

東京地裁はこれに対し「狂言方和泉流宗家は、実子であれば先代の死去に伴い当然に宗家を継承するとの慣行があるとは認められず,能楽及び狂言に係る各流儀の宗家の継承について,流儀内の総意を得ている例が多く,宗家会は,宗家継承については従来より流儀内の総意が原則であり,」

和泉元彌さんは「和泉流内の総意を得ておらず,かえって大多数から反対されているというのであるから,原告が宗家でないことは真実であるか,仮にそうであると断定できないとしても,上記のとおり認識していた被告らにおいて原告が宗家でないことが真実であると信じるについて相当の理由があったものというべきである。」と認定しています。

さらに公演のダブルブッキング,遅刻,早退、団体への誹謗中傷を繰り返したことを理由として,総会決議により退会命令処分としたことについて,その決議の無効確認と損害賠償請求を求めた点には、退会命令手続に瑕疵がなかったことを認定したうえで、

「原告が大幅に遅刻するなどして公演先との間で問題になったことは明らかであるところ,これらの点について本件委員会が調査し,原告を聴聞のため呼び出したにもかかわらず,原告は,これに応じなかったばかりか,被告Aを軽んじるような発言を繰り返し,被告Aを批判していたことが認められ」

「退会命令処分とすることを可とする決議をしたことは,被告Aにおいてその裁量権を濫用ないし逸脱したものとはいえない」ためそこにはどこにも不法行為がないとされ、和泉元彌さんの請求はいずれも棄却されています(平成 17年3月17日)。

不法行為は故意か過失で他人の利益を侵害した時、発生した損害を賠償する責任であり、債務不履行時の契約責任と並ぶ民事上の二大責任です。

一旦した約束は履行させるし、ルール違反で開けられた穴は、違反者自身にふさがせる手当が用意されていてこそ社会はその気圧を保てます。

そしてそれでこそトラブルがない場合の通常ルールも真価が発揮できるのです。

人間は各人の内部にあるリソースをもとに現実を再構築しているため、おなじ現実を前にしても実は見えているものは各人各様です。

間違いなく先代の実子であった和泉元彌さんとそのお母さんのリソースによれば、如何様な事態があろうとも自分が退会になるという結論はありえなかったに違い有りません。

しかし民法の大原則である私的自治の原則という蒸気機関に焼べる薪はカラカラに乾いた、つまり誰から見てもあきらかな材料でなければなりませんし、民事裁判は原告、被告のどちらのくべた薪が乾いたものなのかを一面判じるシステムです(私見)。

不法行為債務不履行責任というフタの前に私感で濡れた薪をくべてもそれは機能しないのです。

その意味で皆が財産を殖やしていくゲームをくりひろげるこの世界では、より乾いた感覚で薪をさぐっていく覚悟が必要になります。

そしてそのことを通常、自立と呼びます。

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