長嶋茂雄さんというあらかじめ勝利したスクリプト

巨人次期監督は原氏を軸に13日に一本化…星野氏破談で新展開(サンスポ)
「江川氏には低視聴率からの巻き返しを図りたい日本テレビからの待望論もある。また中畑氏は持ち前の明るいキャラクターと、脳こうそくに倒れた長嶋茂雄氏=巨人軍終身名誉監督=に代わって昨年のアテネ五輪で日本代表チームを指揮した実績を評価する声もある。」

教育勅語の冒頭部をご覧下さい。

教育ニ関スル勅語

「朕惟うに我が皇祖皇宗国を肇むること宏遠に德を樹つること深厚なり

我が臣民克く忠に克く孝に億兆心を一にして世世厥の美を濟せるは此れ我が国体ノ精華にして教育の淵源亦實に此に存す(以下略)」

長嶋茂雄さんのプロ野球のデビュー戦は金田正一投手から食らった4打席 4三振から始まりました。

プロデビューが4三振では、プロでやっていけるかどうか不安にならなかったかという問いに対して、長嶋茂雄さんは即座にこう答えたそうです。

「とんでもない、そんなことはぜんぜん思いませんでしたね。だって、プロでやれる手ごたえは持っていましたから。はい、そのために大学の4年間をどうすごそうかと考えて、それこそ死ぬ気で猛練習を重ねてプロに入ったんですから。もう大丈夫、ぜったいプロでやれるって確信を持ってね。」(出典:長嶋はバカじゃない 小林信也 草思社)

私たちは、凡人のように結果を出すための方法論などに迷わず、まず未来の自分を明らかに確信しておいてから、宇宙人的行動であらかじめ勝利した自分を切り出してしまう長嶋茂雄さんに目がくらむほど魅了されてしまうのだと思います。

長嶋茂雄さんとは一方で、とかく時間軸にとらわれて将来を気にやみ、あげくに結果を思うように出せないという極普通の私たちに対して、鮮やかなダンスで人生のひとつの真実を見せてくれる天才舞踏家なのかもしれません。

さて教育勅語ですが、明治憲法が発布された翌年の1890年、天皇が教育の基本姿勢に関して国民に直接語った言葉として発表されています。

それはまず「皇祖皇宗」、すなわち天皇が収めるこの国でという君主主権宣言の言葉で始まり、国民は「臣民」すなわち君主の国に尽くす者、また国家体制を神話ベースに解釈する「国体」というキーワードも盛り込まれていました。

戦争に負けると国民主権体制に反する教育の基本思想である教育勅語は問題視されることになり、「主権在君並びに神話的国体観に基いている事実は、明かに基本的人権を損い、且つ国際信義に対して疑点を残すもととなる」として昭和23年に国会で無効化が決議されました。

これをうけて現在の教育基本法は、その前文に「われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない」の言を置き、個人に主権がある時代の教育であることを再言しています。

現在の私やあなたが国体のために教育を受けず、教育基本法の3条にいうように「能力に応ずる教育を受ける機会を与えられ」るためには、私たちが戦争に負けたあと、個人の能力の開花が結果的に国家の発展にも資するのだという発想の一大転換が必要でした(私見)。

しかし現在の教育基本法国民主権原理に基づくものとはいえ、教育システムがかならずしもいい結果をだせていないという意見が言われはじめてずいぶんたちました。

教育勅語が否定された現代、子供達がまず最初に大人から伝達されるべきものは九九や書き順ではないということの証左かもしれません。

できることなら巨人軍新監督には、長嶋茂雄さんのような「あらかじめ勝利したスクリプト」をもっている希有な大人になってもらい、その確信で未来を削り出す様子を子供達に見せてもらえればと思います。

それをインプリントされた子供達には、その後の挫折が挫折でなくなるのです。

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