セカンドオピニオンという法の外灯

セカンドオピニオン 最適な医師・治療選びに活用を(日経BP)

民法の644条をご覧下さい。

第644条〔善管注意義務

「受任者は委任の本旨に従ひ善良なる管理者の注意を以て委任事務を処理する義務を負う」 

委任とは、自分の仕事や取引などを誰かに頼んで代行してもらう契約のことです。

わたしたちはお医者さんにかかるとき、一種の契約を結んでいますが、この医療契約は法律行為ではないので、委任ではなく準委任だと考えられています。

セカンド・オピニオンとは、患者が自分の今かかっているお医者さん以外のお医者さんに自ら意見を聞きにいくことです。

民法上は、地元のお医者さんに内緒で街の大学病院にかかったときは、医療契約がそれぞれ成立していることになり、この時点では644条という法的義務の片手はどちらのお医者さんの肩にも乗せられています。

医療契約が一応どちらとも成立しているといえるからです。

受任者の善管注意義務という民法644条は、どちらの病院にもあなたにとってベストと思われる診断を出すことを医師たちに要求しているのです。

そしてその後もし地元のお医者さんでなく、街の大学病院で本格的に見てもらうことになったら、地元のお医者さんとの医療契約は一旦終了し、大学病院との契約が新規に成立することになり、これによって民法が受任者に負わせる善管注意義務という手は、大学病院の肩にだけ乗せられ、最後まで彼らにベストを尽くさせます。

そもそも医療契約は行為債務なので、やることさえやっていればよく、必ずしも全快が債務の本旨に従った履行だとはいえません。

全力をつくしていなければ644条違反で不完全履行となるとはいえ、腕のない医師が彼なりに全力を尽くしたなら、契約義務上はたとえ患者が死んでも違反があったとはいいづらいのです。

かつて平成 7年6月 9日という判例で、最高裁は、「医療機関が当時比較的新しかった治療技術を実施せず、それが実施可能だった他の医療機関にも転医させなかった時は、診療契約に基づく債務不履行責任を負う」として、その病院の「地力」外の技術を提供できなかった病院の責任も認定したこともあります(判旨意訳)。

しかし私たちは、とりかえしのつかないことになってから法廷でなど争いたくありませんので、結局私たちの最初にやるべきことは、あらかじめそのお医者さんに用意されている経験値や設備などの、病院の「地力」を探ることなのだということになります。

そしてセカンドオピニオンを探る私たちに、ファーストオピニオンと違った治療方法が提示されれば、医学知識など私たちになくとも、各病院間にはあきらかにそういった地力の違いがあることが透けてわかるはずです。

民法644条という委任者のために用意されたツールを上手に使って、私たちはあらかじめ医療過誤という闇の外側を歩かなければなりません。

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