グーグルが引き抜き、マイクロソフトが椅子を投げた

Ballmer Throws A Chair At "F*ing Google"(John Battelle's Searchblog)
「Mr. Ballmer said: "Just tell me it's not Google." I told him it was Google. At that point, Mr. Ballmer picked up a chair and threw it across the room hitting a table in his office. Mr. Ballmer then said: "Fucking Eric Schmidt is a fucking pussy. I'm going to fucking bury that guy, I have done it before, and I will do it again. I'm going to fucking kill Google." .... Thereafter, Mr. Ballmer resumed trying to persuade me to stay....Among other things, Mr. Ballmer told me that "Google's not a real company. It's a house of cards." 」

(私訳)

「バルマーは、転職先がグーグルではないと言ってくれといったんだ。私は転職先はグーグルだと伝えた。その瞬間バルマーは椅子を部屋の向こうに投げつけ、テーブルにぶち当てたんだ。バルマーはエリック・シュミットはとんでもない野郎だと言ってたよ。あの野郎埋めてやる、そんなの以前にやったこともあるし、何度でもやってやる、グーグルをぶっ潰す!とも言っていた。そのあとバルマーは私を引き留めにかかったんだ。グーグルなんて会社じゃないぜ、あんなもん吹けば飛ぶトランプの家だと。」

労働基準法の1条2項をご覧下さい。

第1条(労働条件対等決定原則)

「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」 

現在覇権をめぐってしのぎを削っているグーグルとマイクロソフト間で優秀な技術者の移転があったようですが、この問題は、我が国では労働法上、退職後の競業避止義務と呼ばれます。

競業避止義務とは、労働者が使用者の営業と同種の営業を営んだり競争的業務を行わない態度を維持する不作為の義務のことです。

条文はありませんが、就業信義則で労働者はその義務を負っていると考えられています。

しかし一旦会社を辞めてしまった人がいつまでも前の会社に対して信義則で競業避止義務を負うのはおかしいので、その場合就業規則などで退社後の義務も明示されていたことなどが求められます。

ただその競業避止特約があったからといって、即、労働者がそれに縛られるわけではありません。

その内容があまりに一方的な場合、労働者がもともと保障されている憲法22条1項の職業選択の自由・営業の自由を害することになるからです。

では競業避止特約の合理性は、どこで判断すればいいのでしょうか。

かつてフォセコ・ジャパン・リミテッド事件と呼ばれた判例で、奈良地裁は「制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について企業秘密の保護、転職の自由、技術独占による消費者の損失の三つの視点で検討を要する」のだとしました(意訳)。

情報企業の技術者が対抗情報企業に移転する場合、(もし話が日本なら)基本的には憲法が保障している権利である以上、ベースは労働者の職業選択の自由に主眼が置かれるべきと思われます。

しかし労働基準法1条2項は、労働契約が常に対等な立場で結ばれていることを要請しています。

そしてもし、というよりも情報産業ならばいずれの企業でも情報漏洩に関する特約及び退職後の競業避止特約を結ぶはずですが、労働契約書にそうした特記条項がある時は労働者のほうも就業の際に対等な立場でその条件を判断しているという推認が働きます。

つまりその状態で企業と就業者の両者の間に、合理的範囲内の縛りを認めることは、よほど特別な事情がない限り、憲法22条1項を害するものとはいえなくなるのです。

情報企業の商材は情報そのものであり、企業内でこれを直接扱っている技術者の転職を、憲法の美名の下無制限に認めてしまっては、社会を構成する企業の発展は望めません。

そしてそれは、長期的には国家の国際競争力の衰退を許すことにもつながります。

判例があえて競業避止義務の争いにおいて「社会的利害」という観点を加えたのは、情報が労働者とともに野放図に移動することの、当事者以外の社会にもゆっくり及ぼすであろう影響を十分理解した上でのストッパーだと考えられます。

(参照: 労働判例百選 有斐閣

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