干からびたチーズと微生物の仕事

首相公邸“干からびたチーズ” 実は仏産高級品(Yahoo)

「実はこのチーズ、今月六日夜に首相公邸で首相と会談した後、森喜朗元首相が「硬くて歯が痛くなった」と記者団に不平を漏らした酒のツマミ。これが話題になり、首相がお店に注文。「おいしいじゃない」という林氏に、首相は「(森氏に出したときは)チーズの名前を知らなかったんだけどね」と満足そう。」

食品衛生法の第9条をご覧下さい。

第9条

「第1号若しくは第3号に掲げる疾病にかかり、若しくはその疑いがあり、第1号若しくは第3号に掲げる異常があり、又はへい死した獣畜の肉、骨、乳、臓器及び血液又は第2号若しくは第3号に掲げる疾病にかかり、若しくはその疑いがあり、第2号若しくは第3号に掲げる異常があり、又はへい死した家きんの肉、骨及び臓器は、厚生労働省令で定める場合を除き、これを食品として販売し、又は食品として販売の用に供するために、採取し、加工し、使用し、調理し、貯蔵し、若しくは陳列してはならない(以下略)。」 

ナチュラルチーズは牛乳に酵素を加えて固め、水分を切ったあと微生物の力を借りて発酵させただけの食べ物です(乳等省令 2条17)。

ナチュラルチーズのままでは酵素やカビが生きたままなので、ちょっとこわい気もします。

食品衛生法は、わたしたちが直接口に入れる食品の管理に必要な措置を講ずることで飲食による衛生危害を防止し、国民の健康の保護を図ることが目的の法律です(1条)。

なんだかナチュラルチーズなど発酵した乳製品は、とても食品衛生法が気にしそうな性質の食品ですが、厚生労働省は乳等省令の2条17号でナチュラルチーズを定義することで食品衛生法9条にある「厚生労働省令で定める場合」とし、厚生労働省の示した特定条件下でわたしたちが発酵乳製品に触れることを可能にしています。

発酵食品を人間が好むこと、またより「高級な発酵」を人が創作するため長い歴史で努力していることは、快感をシグナルとして人の体が微生物の働きを体内に取り込むことを肯定している証拠かもしれません。

現に放っておけば腐って終わる牛乳に微生物を投入することで、場合によっては驚くほど長期間保存が可能な食品を生み出すことができますし、微生物は発酵という仕事でたくさんの薬も作ってくれています。

なんでも地球の海水と、人間の血液の成分はほとんど同じなのだとか。

それを聞くと海中の主役が微生物であるように、人間の体がチーズのような微生物の仕事を欲するのも理解できる気がしてきます。

森元首相には、固めのナチュラルチーズであるミモレットがお口に合わなかったようでしたが、乳等省令2条がチーズを保護した法意から読めば、小泉さんの「森さん、どうぞ乳製品でぐっすり眠っていてください」というメッセージだった可能性も捨て切れません。

 

 

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