自殺サイトを利用した連続殺人事件と機能しなかった特別法

「繰り返してしまう」3年前に吐露…自殺サイト殺人(Yahoo)

「インターネットの自殺サイトを利用した連続殺人事件で、派遣会社契約社員・前上博容疑者(36)(逮捕)が3年前、通行人を襲って逮捕された事件の公判などで「何度もやめたいと思いながら、同じことを繰り返してしまう自分は病気ではないか」と苦悩を吐露していたことが15日、わかった。」

犯罪者予防更生法の第1条をご覧下さい。

第1条(目的)

「この法律は、犯罪をした者の改善及び更生を助け、恩赦の適正な運用を図り、仮釈放その他の関係事項の管理について公正妥当な制度を定め、犯罪予防の活動を助長し、もつて、社会を保護し、個人及び公共の福祉を増進することを、目的とする。」 

もし本人の意に添わず、定型的なパターンにはまったとき犯罪を犯してしまう人が確実に存在するとしたら、わたしやあなたはいったいどのような機能を社会に設置するよう運動していくべきでしょうか。

この点かつてイタリアのロンブローゾというお医者さんは、「犯罪を犯す人には共通した頭蓋骨の形がある。彼らは劣っており社会に適応できないため犯罪を起こさざるを得ない」と言い切りました。

これを近代学派における生来性犯罪者説と呼びます。

近代学派とは、罪から逃れられない人が社会には確実にいると分析する態度が科学的であるとする立場の人たちであり、その合理的な態度こそ人を公平に扱うものだとします。

(これに対して古典派とよばれる立場を取る人たちは人間の自由意思を信奉し、自由意志で罪を犯すことを選択したからこそ社会は彼を罰することができると考えます。)

限りなく近代学派的視点から眺むれば、犯罪を一度犯した本人が「またやってしまうかもしれない」と取り調べや公判で吐露したとき、わたしたちには本人が社会に適応させるよう矯正する対応が要請されます。

現に日本には犯罪者予防更生法という取り決めがあります。

これは主に保護観察処分をもって犯罪を犯してしまった人の更正を外形的に社会が促していく法律です。

行為者を仮に社会に放免し、社会と本人のためにその折衷点を見極めていくのです。

問題は果たして行政は、日々のルーティン業務の中、どこまでこれら犯罪者の独白をセンシティブに拾いきれるのかという点です。

性質の危惧を吐露していた本行為者において、犯罪者予防更正法が発動されることはありませんでした。

刑法学の新派・旧派の争いに決着はついていませんが、ひとつ確かなことは行政が後手に回ることによって、生まなくていい被害者を生んでしまうことは許されないということです。

 

 

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