偽ブランド店への店舗賃貸と放たれた猟犬

偽ブランド店:知りながら賃貸した女2人、書類送検 大阪

「調べでは、2容疑者は東成区東小橋3の商店街にそれぞれ店舗を所有。シャネルなど高級ブランドの偽物のバッグなどを販売すると知りながら、昨年11月~今年5月、経営者の男らに相場の5倍以上の月18万~20万円で貸した疑い。2容疑者は「経営していた洋品店が不振で、偽ブランド店の方が高く貸せるのでもうかると思った」などと容疑を認めているという。」

刑事訴訟法の第189条第2項をご覧下さい。

第189条〔一般司法警察職員の捜査権〕

「2 司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。」

犯罪が組織的になると個人で行われる場合に比べて巧妙・強力になり、その捕捉や立件が非常に難しくなります。

そこで平成11年、組織犯罪を対象に個人でそれを行ったときより重罰に処することで組織犯罪を威嚇する、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(通称 組織犯罪処罰法)が成立しました。

また同年、同じ目的で一定の犯罪の捜査のための通信傍受を認めた「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」や「刑事訴訟法の一部を改正する法律 」も成立しています。

これらは総称して俗に組織的犯罪対策三法と呼ばれています。

かつて霞ヶ関を狙った地下鉄サリン事件は、「私たちの社会は善意が覆っている」という共通幻想を黒く塗りつぶしました。

さらに犯罪を犯す人々が国境をまたいで活動し始め、それにより犯罪人捕捉を難しくしていますので、各国が同一価値観を結んで協力しあうべき要請も高まっています。

組織的犯罪対策三法はこうした組織による犯罪の複雑化、広域化に対応していこうとする立法なのだと説明されています。

一方、こうした法群が立体的に機能しはじめることには、識者から非常に懸念も示されています。

すなわち組織的犯罪対策三法の立体運営からは、読みようによっては捜査機関の私たちに対する「どんな連中も油断するとすぐにでも犯罪を犯そうとするのだ」という視点を読み取ることが可能だからです。

刑事訴訟法はその189条で捜査は「犯罪があると思料されるとき」に初めて出動することをおまわりさんに許しています。

その立法趣旨は「社会法益の保護をなるべく早期に実現せよ」という糾問的要請と、「誰も彼もを犯罪の嫌疑にかけるような捜査はするな」という弾劾的要請の拮抗の表現にあると思われます(私見)。

刑事訴訟法という猟犬は、真実発見の方向に牙を研ぎすぎれば必ず噛まなくてもよい人権をも切り裂いて血を流してしまう獰猛さをも持ちあわせているのです。

盗聴などという予備的な捜査や、今後立法を予定されている共謀罪などという会話そのものを取り締まる法は、その哲学中に「真正の悪人」などというものを観念することがあたかも許しているかのようです。

偽ブランドショップに店舗を貸すという単に家賃を受け取っただけの女性二人は、明らかな情知により組織犯罪処罰法の第11条、犯罪収益等収受で書類送検されました。

しかし組織的犯罪対策という三頭の猟犬は、改正というヤスリをその牙にかけられることで、今後の適用範囲が非常に不明確になる特質をもっています。

手綱を緩める改正をずるずる許せば、彼らの行く先は狩人自身にも見えなくなっていくのです。
 

法理メール?