花田勝さんの相続放棄と名家への郷愁

花田勝さん相続放棄 貴乃花親方は「答えようがない」(朝日新聞)

民法の964条をご覧下さい。

旧964条 (家督相続の開始)

家督相続は左の事由に因りて開始す
 一 戸主の死亡、隠居又は国籍喪失
 二 戸主が婚姻又は養子縁組の取消に因りて其家を去りたるとき
 三 女戸主の入夫婚姻又は入夫の離婚」 

家督相続とは、戸主の地位を承継する旧民法の身分相続のことで、普通は長男が家督相続人となりました。

今でも俗に「あなたは長男だから」というのは、この日本独自の旧制度をひきずっている言葉遣いです。

家の制度とは家庭を戸主と家族に構成する法律制度のことで、そこで戸主は戸主権という強大な権利をもっており、たとえばあなたの結婚も、戸主の同意がなければ法律的に認められませんでした。

家の制度は武士の家族制度を明治民法典にとり入れたものといわれ(「お家断絶」というアレです)、家族を封建制度で国が規定したことは、国家体制を一定方向に統制することに非常に寄与したといわれます。

もともと相続という、法律的な権利義務という抜け殻を一気に生存者に被せる制度は、この「家」という升への信頼を壊さないよう父が死んでも家督を長男に継がせようとしたことが初期の民法の目的だったようです。

升への信頼が戸主の死亡によっても揺らがないことで、そこに寄り添う親族は「名家の出」と呼ばれたわけです。

現在では憲法が結婚まで戸主に左右される非民主的な家制度は否定し、相続は単に財産関係近親者に、そのまま全部受け継がせることという、ある意味淡泊な意義になっています。

そしてこの相続を自由に放棄するということは非民主的な旧民法下では認められていませんでしたが、相続が純粋な財産関係になり国の構造が民主主義に変わった今、相続の放棄は自由に認められています。

相続放棄という制度がまず第一に想定しているのは、「被相続人の残した過大な債務を前に途方に暮れている相続人」ですが、現実には「田畑を分断したくない農村」でこの相続放棄制度はより活発に活用されていると言われています。

今や国民が「名家」を語るのは法律的な内実がありませんので、前時代へのおぼろげな郷愁だともいえます。

花田家の長男はその相続の放棄の自由を行使し、次男に父の抜け殻一切をすっぽり被せる道を選択しました。

「家長」という相続の非民主的な側面を強調する次男に向けて、長男が「相続放棄」という極めて民主的なあびせ倒しを決めたことは、国民の「名家」に対するファンタジーにも冷や水を浴びせています。
 

 
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