キャップストーン:王の墓の定礎

「定礎」の知られざるヒミツ(livedoor)
「実は、定礎石の下やプレート裏には『定礎箱』と呼ばれる箱が納められているのです。その中には、建物の設計図面や氏神のお札、さらにその時の新聞や雑誌、社史、流通貨幣などが入っていて、ちょっとしたタイムカプセルになっています」

建築基準法の第1条をご覧下さい。

第1条(目的)

「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。」
 

古王国時代、スネフル王の二人目の子供、クフ王ナイル川上流の石を切り出させ、二十数年の歳月と、建築に駆り出された農民の夥しい数の死の上に、その死後の住まいであるピラミッドを建築させました。

その後クフ王が死ぬと内蔵が取り出され、ミイラとなり、王の間に棺が収められると石を落として入り口をふさぎました。

この一時代を王として生きた男が、今度は神として永遠に生きるための東京ドームより大きな家の完成には、キャップストーンという文言を刻んだ石が最後にかぶせられたといいます。

その巨大建築物の定礎、キャップストーンの下には、今生での寿命を呪った王自身が、「永遠」を得るために、自らの屍を封じているのです。

ところ変わって現代の日本、定礎は建築基準法に定めがありませんので、慣習のようなものだといえます。

そして現代の定礎は取り壊さなければ取り出せない箱の中に、建立時の時空を封じ込めることで、逆に自らの限られた時間を慈しもうとするささやかな思いさえどこか読み取れます。

現代の私たちの国では、他人の死体を橋にして寿命を乗り越えようとする暴君の存在は許されていないのです。

それが建築基準法、第1条文言にある「公共の福祉」という言葉にも端的に表現されています。

「公共の福祉」は憲法学宮沢俊義先生により、「人権相互の矛盾衝突を調整するための実質的公平の原理」であると定義され、これについて学説はほぼ同意しています。

それはあくまで他者の人権との調和工具であり、「公共の福祉」という言葉を用いて国家が個人の権利を排斥しようとすることは許されないということです。

クフ王の時代から4500年経って、もっとも尊重されるべき場所は、たまたま権力が集中した一人の男の椅子ではなく、あなたが今いる、その場所だということになっています。

権力の濫用によってつくりあげられたピラミッドの定礎、キャップストーンと王の間は、永遠の命を欲した結果、やがて盗掘に荒らされただの観光資源になってしまいましたが、現代の建築物に封印される定礎は、日照権など互いの権利を建築基準法で譲り合いながら建てられる建築物に封印され、その結果プライバシーという美しく儚い光を未来に運ぶ仕事を果たしています。

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