量子コンピューターの出現と暗号の本質

光の粒で超高速演算、基幹技術に初成功、東大助教授ら(朝日新聞)
「けた違いの超高速演算ができる「量子コンピューター」技術の根幹を支える、「量子もつれ」という状態を転送することに、古澤明・東京大助教授らが世界で初めて成功した。」

電子署名法の第3条をご覧下さい。

電子署名及び認証業務に関する法律

第3条

「電磁的記録であって情報を表すために作成されたものは、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」

ヤフーオークションなどの隆盛で、本来匿名を確保したまま通信できるインターネットも、大切な場面ではその身分を証明する必要が出てきました。

また現在、官公庁の公文書もPDFという文書形式に統一されはじめ、デファクトスタンダード化が進んでおり、公文書の真正証明問題も問われています。

そしてそれら各種意思の真正度、すなわち本当に本人が、あるいは該当官庁が書いた文書なのかどうかを証明する技術として公開鍵技術というものが用いられています。

これは送り手と受け手が複合的に関わることで、暗号化されたPDFや電子文書を複合化、すなわち読める文章に直す技術のことです。

そしてこの公開鍵技術を難攻不落にしている技術的根拠が、計算の絶対量であり、これは他の暗号技術にも共通した原則です。

たとえば玄関の鍵は、それが鍵で開くものである以上、どれほどセキュリティ技術が高いものでも鍵以外の方法であけることができるのですが、単にその仕組みを泥棒さんに類推させるのに非常に時間がかかってしまうため現実的な防犯用具として体をなしているにすぎません。

民法において契約とは意思表示の合致を意味するのが原則であり、電子署名法は民法の仲間として2001年成立後から、電磁的な意思表示を手続きを踏むことで法的に裏打ちしようとする法律です。

現在のコンピュータの情報処理が電子信号のオンとオフ、すなわちCPUの中で流電と無流電が繰り返される様子を二進法になぞらえて指令を解釈しているのに対し、今日のニュースで話題となった量子コンピュータは、いわば並列的にオンとオフの情報を一度に送り込むことが可能で、単にその情報内容の割合によって人が何を計算させようとしているのかをまとめて解釈できる能力を持っています。

ひとことでいえば現在の公開鍵技術の根拠である、絶対的計算量の壁という方法論は、量子コンピュータの前にあっという間に崩れておちる可能性があるということです。

私たちの口座残高が銀行のサーバコンピュータに電磁的に記録されている現在の世の中で、私たちは自分のコンピュータから誰かの口座に送金依頼する場合にもIDとパスワードを用いますが、もし量子コンピュータが実現すればこういった「鍵が二つある」程度のドアは簡単に開いてしまう可能性も原理的にはあります。

本当に量子コンピュータ実現が見えてきた段階では、公開鍵技術を前提にしている電子署名法は量子暗号技術を考慮した改正か、あるいは抜本的見直しを迫られるかもしれません。

ところであなたのおうちに泥棒さんが入ってこないのは本質的には鍵の仕事ではありません。

ちょっとお考えいただければお分かりのように、本当にその家に入りたい人がいれば窓を割っていくらでも入れますし、方法はいくらでもあり、IDカードがないと入れない場所というものでさえよく考えを詰めれば共通幻想でしかありません。

つい先日もアメリカ国防総省のコンピュータに侵入したイギリスのハッカーが逮捕されたのはそういうことです。

それにもかかわらず私たちの世の中がほぼ平穏に今日も過ごせているのは、皆で正しい世の中をつくっていこうという人の持つ自然発生的な未来を形作る意思がセキュリティ技術の本体だからです(私見)。

もしそれが本当にそうであるならば、暗号化技術とそのハックという小手先のいたちごっこを繰り返すよりも、人は自己や互いを発達させようとする生き物だという視点を大切にした教育プログラムの再編こそ、人が必要以上にセキュリティ問題に時間を割かれず、それぞれの生き方を十分実現できる新しい社会のドアを開けるマスターキーかもしれません。
 
 
 
法理メール?