大量の流血が対策を講じろと叫んだ

「車の破片」有力、衝突時に付着例…謎の金属片(Yahoo)
「全国の国道や県道などのガードレールで金属片が相次いで見つかった問題で、国土交通省は3日、緊急点検の結果、47都道府県の直轄国道2807か所で3109個の金属片が見つかったことを明らかにした。」

自賠責法の3条をご覧下さい。

自動車損害賠償保障法

第3条(自動車損害賠償責任)

「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる(以下略)。」

条文をよくご覧下さい、「生命又は身体を害したときは」としか書いてありません。

私たちが車を購入するとき、必ず加入させられる自賠責保険ですが、それは3条をもって人身事故以外に適用されることはないのです。

そもそも自賠責だけで人身事故で相手に与えた損害を全てカバーすることはできませんし、自分の車の物損被害の時もこれを修理するのもままならないので、多くの人は任意保険にも加入しています。

しかし中には平気で自賠責だけ加入した自動車、つまり法律で罰せられることだけを回避して、起こりうるであろう事故の備えをなにもしていない自動車は驚くほど存在します。

総務庁統計局によれば日本の自動車総数は約5000万台、一説によればその25%、およそ1250万台の自動車が任意保険に加入することなく今も国道やハイウェイを爆走しているといわれます。

しかしそれは法律に違反していない状態という意味で”法が許した悪意”なのかもしれません。

そしてその帰結として、単純な物損事故、たとえば飲酒運転や居眠り運転中にあやまってガードレールに自分の車をぶつけてしまったようなときには、自賠責しか入っていない人はどこからもお金がでないばかりか、民法709条により高額なガードレールの損害を賠償させられますので、剥がれたボディの一部を残して走り去ります。

また任意保険に入っている人も、物損を保障してもらうことと引き替えに毎月の掛け金が高くなることを天秤にかけ、あるいは物損事故保険ではカバーしきれない請求が国土交通省からやってくるのを恐れてやっぱり走り去ります。

道路交通法72条では、物損事故を含む交通事故を起こした時、警察への届け出を義務づけていますが、どうやらこれを無視した自動車の数がこれまでわかっている今回のガードレールから飛び出した金属片の総数と同じ3109台だと読むことになりそうです。

なにもなければそれを慣習として見逃してよかったのかもしれませんが、通学中の少年がその金属片により太ももに大けがを負いました。

大量の流血が対策を講じろと叫んでいます。

この時誰も見ていない自損事故を報告させるよう、人心に働きかける道路交通法72条の改正では実効性はないものと考えられます。

誰も見ていないところでは、人がどんな損得勘定をするのかはあなたも私もよく知っているからです。

むしろ焦点を当てるべきは強制加入保険である自賠責法のほうではないでしょうか。

道路交通法72条の報告義務違反を厳罰化と同時に、自賠責法3条を改正して、全ての物損のカバーは無理だとしても、特に公共の道路設備に損害を加えた場合はカバーできるような保険にレベルアップする策を講じたほうがよいのではないかと考えます(一案)。

それが講じられていたとすれば、仮に車の購入時に加入することになる自賠責保険の加入料が倍になっていたとしても、金属片のニュースを見て今、覚えのあるドライバー 3109人が、胸の底でわき起こる焦燥感と罪悪感を無理に無視して仕事に行くことはなかったのです。
 

 
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