アシモフの杞憂は名誉を加えて完成する

家庭用ロボット、トヨタが2010年にも販売へ(朝日新聞)

アイザック・アシモフの「わたしはロボット」(I ROBOT)に出てくる「ロボット三原則」、Asimov's three laws of robotics をご覧下さい。

(1) A robot may not injure a human being, or, through inaction,allow a human being to come to harm.
(2) A robot must obey the orders given it by human beings except where such orders would conflict with the First Law.
(3) A robot must protect its own existence as long as such protection does not conflict with the First or Second Law.

 [私訳]

(1) ロボットは人間に危害を加えてはならないし、危険を見逃して人間に危害を及ぼしてはならない。
(2) ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならないが、そのことで人間に危害が及ぶなら従わなくてよい。
(3) ロボットは(1)条、(2)条に反しない範囲で自分を守らなければならない。

ロボットはその実現がまるで夢物語だった時代、初期のSF映画や小説ではまるでゴジラフランケンシュタインのように荒れ狂う制御不能な化け物として描かれていました。

そこでアシモフロボット三原則をI ROBOT の中で描き、人がいつか開発するであろう人のような機械、ロボットとの共存可能性を提唱しています。

アシモフの描いた3つの原則のうち、第一条の保護法益は人間の生命、第二条の保護法益は人間の自由、そして第三条の保護法益はロボットという高額な財産の自立保護だと解釈できます(私見)。

興味深い対照として、日本の刑法の第三編「個人法益」に何が書いてあるのかご覧下さい。

・第一章 生命・身体(199-219)
・第二章 自由・私生活の平穏(220-229)
・第三章 名誉・信用(230-234)
・第四章 財産(235-263)

第三章、名誉・信用を覗いて、アシモフロボット三原則は見事に刑法の個人法益の章立てにその順番までもあてはまっているようです(私的解釈)。

いわば四章で守られているはずの「財産」が自立起動することで、一章と二章の自己法益を内部侵害しないように立てられた原則だといえます(私見)。

これはロボットの人工知能問題です。

すなわち、ただの家電製品と比べ、ロボットの扱いをより複雑にしているのは、ロボットそのものの性能の向上が、ロボットの自主判断能力にかかっているところにあるのです。

オーナーである認知性のおばあさんが下した「そのフォークでこの腹の上の虫を刺してくれ」という指令を、普段の「そのフォークをリンゴに刺してくれ」という指令とどう区別するのか、無限にある不確定要素の組み合わせを電算処理をもって選別、組み合わせ、正解にたどり着こうとするのが人工知能技術、すなわちAIです(私的解釈)。

しかし仮に尊厳死問題に含まれる哲学的命題がおばあさんから突きつけられた時、TOYOTAのロボットに搭載された AIがどこまで判断できるのか、ロボットの製品的利便化問題と、存在意義は、人の真の法益分水嶺に拮抗を見せます。

剣の先において、人工知能は感情という呼び名に変わるのであり、それがスピルバーグが映画「AI」で提起した問題でもあります(私見)。

法益の侵害とは他者によるものを意味する時代が長く続きましたので、法律は憲法においては国家権力と個人の尊厳のバランスを、民法においては各人の法益のバランスを、刑法においては社会の安寧と適正手続のバランスをとっていれば済みました。

対立利益は常に外部にありました。

しかし社会の高度化により、工業製品という自己の財産が、その不備によって生命や身体に危害を及ぼす事態が頻発したため、PL法[製造物責任法]が定立され、製作者の責任を問う社会まで段階は進みました。

ロボットのTOYOTAによる本格製造のニュースが今日、伝えられたことにより、私とあなたの住む世界は次の形の法律を要求される段階に入りつつあります。

それは製造者ではなく、責任能力を問える製品の出現を前提とした製品そのものを律する法律、すなわちアシモフ三原則の現実立法化を意味するかもしれません。

アシモフがロボット・オーナーの名誉を保護しなかったのは、神以外に悪意という心宿る生き物を創造することはできないというキリスト教的ドグマからでしょうか。

しかし、現代社会の技術は、利便の目的のもとにそこに今、肉薄しようとしています。
 

 
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