月に立つ広告と空に浮かぶメッセージ

宇宙空間の「広告利用」禁止法を提案、米FAA(CNN)

「宇宙空間に「広告」が登場した場合、地上からは望遠鏡などなくても、月と同程度に観察出来るとし、広告が明るい場合、宇宙飛行士の業務に支障を与える恐れがあるとも述べた。 また、夜空の美観を損ねる、とも指摘している。 」

屋外広告物法の3条をご覧ください。

第3条(広告物の表示等の禁止)

都道府県は、条例で定めるところにより、良好な景観又は風致を維持するために必要があると認めるときは、次に掲げる地域又は場所について、広告物の表示又は掲出物件の設置を禁止することができる(以下略)。」 

たしかに地上から月を眺めたとき、「COCA COLA」って書いてあったらやるせないことこのうえありませんが、私たちの国にも屋外広告物法というものがあり、なんでもかんでも看板を立てていいことにはなっていません。

実はこの法律は旧称を広告物取締法といい、その性格は公共の安寧秩序と風俗の保持という非常に警察的視点にたったものでした。(実際にそれは警察のなわばり法でした。)

私たちが戦争に負けた後、この世の中を監視するような法律は廃止され、現在の屋外広告物法は、広告の思想的内容そのもので(つまり国の好みで)屋外広告が排除される危険はなくなりました。

とはいえ、広告が規制されるのは、結果的に表現行為にブレーキをかけることになりますので、屋外広告法は間接的に表現の自由を保障した憲法 21条との間に緊張関係を孕むことになります。

ちなみに戦争に負けるまで私たちが使っていた憲法では、表現の自由は「法律の範囲内において」保障されていました。

つまり、国民の戯れ言は、決して国家のふところの許容範囲を超えることを許されていなかったのです。

戦争に負けた後GHQにより導入された新しい憲法にはこの文言がないばかりか、国家が表現活動に介入する「検閲」も絶対的に禁止しています。

他国の力を借りて、私たちは初めて国の行方を堂々と論じる権利を手にしたのです。

この私たちの未来を握る大切な生命線である表現の自由という権利を死守するため、屋外広告もやたらと禁止されるのは好ましい国の空気をつくりません。

かつて右翼のビラ(つまりズバリ思想の表現)が大阪中に貼られた事件の有名な判例で、最高裁は「この程度の規制は、公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要且つ合理的な制限である」と簡単に判断して、その張り紙を禁止した条例を合憲と判断しましたが、学説上は「ことがことだけに、もっとセンシティブに判断すべきだった」という批判が根強くあります。

月に「COCA COLA」や「Macdonald」の文字が浮かぶ可能性はなくなったようですが、地上が再び火と放射能の海になったとき、わたしやあなたには空に「殺人を停止せよ!」とメッセージを浮かべる形式的な権力がありますし、またそれが可能ならどのような法律を超えてもそうすべきです。
 

 
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