狂牛病の抜け道と法の修正パッチ

近江牛偽装で新たに逮捕 牛の個体識別情報を偽造(産経新聞)

通称、牛肉トレーサビリティー法の14条をご覧下さい。

牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法

第十四条(と畜者による個体識別番号の表示等)

「と畜者は、牛をとさつした後、当該とさつした牛から得られた特定牛肉を他の者に引き渡すときは、当該特定牛肉に当該牛の個体識別番号を表示しなければならない。」
 

あなたがお店で売られている牛肉の素性が知りたければ、以下のアドレスから個体識別番号を使って検索できます。

http://www.nlbc.go.jp/

しかしそもそも未だパソコン用のWEB画面を読み込めるブラウザを標準装備した携帯が普及しきっていないのが第一の問題点です。

いちいち自宅に帰って調べてからスーパーに戻ってくる奥さんはいません。

次に店舗に検索機械がおいてある場合も操作性の悪さが第二の問題点です。

地元恵比寿三越の地下食品売り場にも設置されていますが、実際あれを操作している奥さんを未だに見たことがありません。商品のバーコードを照らせば自動的にデータが表示されるくらいのものでなければ実効性がないと考えます。

そして第三に決定的に問題なのは、そもそも個体識別番号が偽装された場合、消費者はでっち上げの情報を一生懸命追いかけた上で、偽装された安心感のもとにその肉を口に入れることになるという点です。

平成13年9月、国内で初めて牛海綿状脳症BSE)が発生し、その対応策として、平成15年6月に牛肉トレーサビリティー法は制定されました。

しかしその罰則は、23条により30万円以下の罰金でしかありませんので、数百万円、数千万円の利益を上げられる目算があれば、あえて30万円を危険コストと割り切って堂々と偽装を繰り返す業者さえでかねません。

トレーサビリティ法、すなわち情報追跡可能性確保法(私的翻訳)と名乗っているところからも明らかなように、本法の直接のターゲットは消費者の命の安全であり、間接のターゲットは信頼確認の道をつけることによる業界の発展であると解されます(1条)。

この仕組みに対して横着をし始める業者が現れた場合に私たちが受け取る不利益とは、目に見えない恐怖に対して私たちは方策をとることができないのだという無力感のことです。

そもそも狂牛病はその実態が未だはっきりと発表されておらず、ことによってはいままでにハンバーガーを食べたことのある人全てが感染している可能性さえあると指摘されるほど、おかしな状態の牛の屠殺→食肉化は昔から日常的に行われてきたのだと及び聞きます。

それゆえ牛肉トレーサビリティー法は、得たいの知れない狂牛病に対して国内で私たちが採れる最善の方策だったはずであり、個体識別番号に対する法律を誠実に尊守する態度は、場合によっては人の生死に関わる情報の土台になる部分です。

トレーサビリティー法を踏み越える人を軽罰で放免しつづければ、農林水産省が巨額を投じたシステムは業者次第で実態から乖離してしまう可能性を証明しつづけ、消費者からは何のことはない、あれは形を変えたいつもの無駄な公共工事だったのかと評価されることになります。

一方で業者にしてみても、その法律の形が十分に業界から合意を得ていなければ、談合に対する独占禁止法がごとく、数十年に渡って「実態を理解していない法律だ」と業界から無視され続けるところに落ちかねません。

法律を小馬鹿にする業者には別な形のペナルティを与え、法律が必要以上に業界を圧迫するのならその微調整を施すなど、私たちは最善策の実効性をいつまでも模索しつづけなければなりませんし、それが生きていくということのたどたどしい一側面ではあります。
 

 
法理メール?