サラリーマンによる36億円の納税とシャウプの抜け穴

サラリーマン初の首位 払ったり36億円 16年分高額納税者(Yahoo)

所得税法の233条をご覧ください。

第233条(申告書の公示)

「税務署長は、その年分の確定申告書又は当該申告書に係る修正申告書に記載された第百二十条第一項第三号に掲げる所得税の額が千万円を超える者について、財務省令で定めるところにより、その者の氏名及び住所これらの申告書に記載された当該所得税の額を公示しなければならない。」
 

いうまでもなく所得税法233条の趣旨は、納税者を讃え、ひいては他の納税者の功名意識を利用して総納税額を引き上げようというところにあるものと思われます(私見)。

しかしその立法者の優等生的な発想と乖離して、いつの時代も国民レベルではいかに納税額を少なくするかというテクニックが、節税という名のもとに研究されてきました。

戦争に私たちが負けたあと、来日した経済学者シャウプさんにより財閥解体農地改革・税制改革が実施されました。

超過累進課税システム、すなわち所得が増加するにしたがって税金と同時に税率までも上昇する富の集まる場所により国税を負担させる構造に変化したのです。

これを俗にシャウプ税法などとと呼びます。

日本の税法はその後、政策目的を優先させた租税特別措置をとりながらも、今もシャウプ税法の影響を受け続けています。

そしてどれだけの巨富を築いても、放っておけば相続税をもって三代で全部国に財産が吸収されてしまうこのシステムの前に、幾多の経済界の名士と呼ばれる人たちがこれまで知能戦を繰り広げてきました。

小佐野賢治虎ノ門事件、松下幸之助の株式売却益と当時の課税額面評価制の間隙を突いた手法など、あくまで合理的な節税手腕がうなりを上げましたし、ミズノでは創業者水野利八の莫大な遺産を自ら急遽設立した自らの財団にそのまま寄付することで非課税対象になっています。

しかしこれらの行為は法律に則しており、なんらやましいものではありません。

もはや社団法人や宗教法人など、法律的擬制技術を用いた手法は極トラディショナルなものでさえあります。

何故八百屋のおじさんも法人を設立するのか、その本当の理由は大人なら皆がよく知っています。

富裕層からは「累進課税制度を見直せ」という声が徐々に大きくなりつつあります。

いわく「金持ちにとって不公平であり、経済活動を疎外する。そうでなければ国外に出て行くぞ」と。

国家にお金を回すくらいならば自分の金庫に入れたい人たちにとっては、 233条という場合によっては物騒な勲章よりも、自国の税制に縛られずに済むスイスの居住権のほうがよほど欲しいのだということです。

それがシャウプ税法に対する富裕層からの長年の回答であり、また毎年の長者番付にあの有名人が出てこない理由でもあります(私的解釈)。

かつての禁酒法のように、課税法もその運用を間違えれば地下でさらに根を複雑に茂らせる可能性を孕みます。
 

 
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