属地主義と海外にあるサーバの罪

Googleのスペルミス悪用サイト、アクセスするとPC乗っ取り(ITmedia Enterprise)

刑法の1条1項をご覧ください。

第1条(国内犯)

「この法律は,日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。」 

刑法でコンピュータウイルスを罰する条文には第234条の2〔電子計算機損壊等業務妨害罪〕というものがあります。

しかし法律というものは、数が若いほどその効力が強くなり、たいていの法律はその1条で法律全体の設立趣旨や原則を述べることになっています。

私たちの罪を罰する法律は1条1項で日本で起こした犯罪ならそれが外国人でも日本の刑法でつかまえることを原則としてうたっています。

これを属地主義とよびます。

属地主義が原則である以上、もしこのトロイの木馬が仕組まれたページgoogkle.comが国外で作られていて、そして国外のサーバにアップロードされている場合、属地主義の原則から電子計算機損壊等業務妨害罪をもって直接ロシアで犯人を捕まえてくることは難しくなります。

(ちなみに日本のサーバコンピュータは意外に国外のハッカーに知らぬ間に利用、アップロードされていますので、その場合解釈の余地があります。)

一方、国家に重大な損害を与えるような犯罪の場合は属地主義の原則を変形させても日本の刑法をもって外国の犯人を捕らえに行く必要があります。

これを保護主義といいます。(2条)

しかし保護主義に該当するといわれる犯罪は極限られていますし、平成15年改正で新設された第三条の二(国民以外の者の国外犯)にあっても、取り締まれる犯罪はある程度絞りがあらかじめかけられています。

属地主義とは端的に言って、「山田さんちの窓ガラスを割った隣の田中さんちの息子のことは、山田さんのお父さんが直接乗り込んでしかることはできない」という、いわば至極全うな感覚のことです。

憲法の国際協調主義(前文)の裏返しともいえます(私見)。

それはつまり、よい街(世界関係)を作るには、自分の家のことは自分たちで管理し、他人の家のことまでズカズカ乗り込まないことが大切だという考え方です。

もっとも町内でとりきめがあれば、山田さんは隣の田中さんちに乗り込んで、山田さんちのルールで彼の頭にげんこつを食らわせることも可能です(第四条の二 条約による国外犯)。

この点、ヨーロッパという町内には「欧州評議会サイバー犯罪条約」という取り決めがあります。

コンピュータ犯罪が国境を意に介さない犯罪である以上、私たちの町内(アジア・あるいは世界単位)も早期の対応を迫られています。

あなたが今ご覧になっているそのコンピュータ、いつか見たホームページが原因でたった今も誰かから内部をのぞかれているかもしれません。

しかし町内の取り決めが決まるまでは、うちのお父さん(日本刑法)は隣の田中さんちの息子のいたずらを怒ることができません。

現在のところ、あなたにできることは、庭に鈴(ウイルス対策ソフト)を仕掛けておくことだけです。
 


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