ボクサーの死と男達の記憶

TKO負けの田中聖二選手が死亡(日刊スポーツ)

刑法35条をご覧ください。

第35条(正当行為)

「法令又は正当な業務による行為は,罰しない。」

刑法においてはボクシングのような興行としての殴り合いを35条をもって正当業務行為と呼びます。

正当業務行為にあたるとその行為は処罰に値する害悪をもたらしておらず、法的に許容されていると評価されることになります。

この刑法的なふるいのことを違法性阻却事由と呼びます。

しかし35条は違法性阻却事由の判断の単純なフレームにしかすぎません。

ボクシングで相手選手が亡くなってしまっても業務上過失致死に問われないのは選手が互いにルールに同意しているからで、たとえばグローブのなかに武器を仕込んでいれば途端に刑法は違法性の検討をはじめます。

ルソーは著書「社会契約論」の中で人は身体や財産を守るために、社会契約を結んで全体意志に服することになったと説きました。

これが専制政治に対極する国民主権、つまり個人の意思の全体意思への自発的忍従とそれによる個人の自由の構造的獲得を導き出す思想的源泉となります(私見解釈)。

このため法律が一行為の許容性を検討するときは、まずそこに個人の自由な自発的忍従があったのかが重要な出発点になるのです(私見)。

田中選手は全ての男の憧れであるボクシングという格闘技のなかでも別格の場所にあがることを自発的に同意し、長期間の厳しい肉体訓練と食事制限に耐えた後、10回まで全力の戦いを見せ、ダウンではなくテクニカルノックアウトで破れました。

選択という意思の力の光を見せてくれたのです。

たとえ皆が日々の雑務に彼のことを忘れていっても、誰かが彼の名前を出せば、男はいつまでも強烈に思い出します。

 

 

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