UFJ銀に9億円賠償命令 相続税指南、土地購入勧め融資(産経新聞)
「UFJ銀行の行員に勧められ、十億円を借りて不動産を購入した男性(故人)の妻が、銀行の説明をめぐり損害賠償を求めた訴訟で、東京高裁が「銀行は内容を説明すべき信義則上の義務があった」として、UFJ銀行に約九億円の支払いを命じていたことが十一日、
分かった。」
民法1条2項をご覧ください。
第1条2項〔信義誠実の原則〕 「権利の行使及び義務の履行は信義に従ひ誠実に之を為すことを要す」 |
市場(わたしたちの取引)のことは市場に任せておけば一番健全に発達する、この思想がアダム・スミスらが唱えたレッセ・フェール(自由放任)です。
私たちの民法もこれを私的自治の原則という名のもとに取り入れています。
しかしレッセ・フェールが強いものはとことん勝ち、弱いものはただ息を潜めて生きていくだけだという側面が徐々に明らかになるとマルクスやケインズが統制経済を主張しはじめました。
書かれたルールにさえ沿っていればなにをどうしようといいのだといういわばなんでもアリの状態では、理屈に虐げられ奥歯をかみしめる人々が現れることはあきらかでしたので、民法もその1条でまず各人の権利に限界を付けています。
その2項が信義則です。
信義則は民法というルールのもとわたしたちが財産をふやしていこうとするとき、相手方に矛盾した態度をとらないこと、法を守ってから法を利用すること、事態が激変したら寛容になること、放っておいた権利はあきらめることを要求します。
これらをそれぞれ禁反言の原則、クリーンハンズの原則、事情変更の原則、そして権利失効の原則と呼びます。
しかし信義則は一応民法に書かれている通りの約束に則って行動した相手、今回のお話でいえばUFJ銀行に向かって理論的な反論を吹き飛ばす手投げ弾を投げるようなものなので、これを判決に持ち出すときは相当慎重にならなければいわば民法の自殺になりかねません。
UFJは税法における当時の死亡特則を本人に伝えませんでしたが高裁はこの態度をもって、信義則に反するとしてとうとう手投げ弾を炸裂させました。
その時ゆっくりのぼった硝煙の向こうに見えた笑顔は、家族を案じて銀行の言うがままになり思わぬ負債を負わせてしまった亡くなったご主人のものだったはずです。