検察側が上告断念へ 薬害エイズ事件(産経新聞)
「血友病患者の死亡は元帝京大副学長、安部英被告の起訴事実でもあるが、東京高裁は心神喪失として公判を停止。薬害エイズ事件の核心部分だった血友病患者の被害は、誰も刑事責任を問われないまま終わる可能性が強くなった。」
刑事訴訟法の405条をご覧ください。
第3章 上告 第405条〔上告のできる判決、上告申立理由〕 「高等裁判所がした第1審又は第2審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。 ① 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。 ② 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。 ③ 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。」 |
上告とは高等裁判所の判決に対する最高裁判所への不服申立てのことです。
最高裁は審級制度の最後に出てくる例外的機関であり、405条によって各法律が憲法に違反していないか、また前に出た判例と違った判断を高裁がしていないかだけを判断することになっています。
原則的にその玄関を非常に狭くつくってあるわけです。
その理由はルールのルールである憲法や、社会が認知している判例をやたらと判断の素材に持ち出すことは、法律をシャーシに駆動する社会の安定を妨げ、最終的には憲法の権力根拠であるはずの私たち一人一人の地位を解釈のたび不安定にする危険があるからです(私見)。
刑事訴訟法は有罪の者を逃さないという「必罰主義」と呼ばれるハードな考え方と、無実の人は誤って有罪にしないというソフトな考え方を両輪に動きます。
しかしその上位法である憲法のなかには10ヵ条に及ぶ刑事訴訟法に関する条文が定められ、人権保障と必罰主義との利益衝突がある場合には憲法の要請する人権保障が優先するという価値判断が表現されています。
薬害エイズの亡くなった方に対する責任を当時の公務員たちにとらせることは事実上ムリな様子になってきました。
しかしそのことをもっていたずらに私たちは訴訟法というルールをより罰しやすく改変すべきではありません。
憲法の精神に則った手続き法を固守していくことが私たちの未来のために求められるのです。
あなたが明日間違って逮捕され、何十年も家族と別れる羽目になる危険はあなたが思うほどレアな確率ではありません。
ここ日本で一年に起こる冤罪の数は小さなものを含めれば数千件に及ぶといわれています。